『経験から学ぶ人的資源管理〔新版〕』演習問題の出題意図と解答のポイント:第5章
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上林憲雄・厨子直之・森田雅也/著
『経験から学ぶ人的資源管理〔新版〕』
2018年1月刊
第5章の「演習問題」の出題意図と解答のポイントを掲載いたします。
〔1〕まずは,第 2 節を読み直し,人を育てる方法には,職場内で行われるトレーニングと職場外で行われるトレーニングの大きく 2 種類があり,前者を OJT と呼び,後者にはOff-JT と自己啓発と呼ばれるプログラムがあることを整理してください。OJT は上司や先輩から仕事に直結する知識を教えてもらい,それを仕事で実践しながら習得する訓練方法であること,Off-JT や自己啓発は実践知識を体系的に結びつける原理原則を学習する教育手法であることを,それぞれ理解することがポイントです。また,Off-JT の具体的なプログラム(階層別研修,職能別研修,特定課題別研修)内容については,2-2(1)の記述内容を参考に,表に整理してみましょう。さらに,第 3節で説明したように,最近の日本企業においては,組織主導の人材育成から,個人と組織の両方に育成責任を求めるという考え方に変化していることを押さえてください。その点に関して,本文中で紹介したオタフクソースや富士通マーケティングの事例で確認するとともに,他の事例も探して組織と個人の育成責任のバランスを図った人材育成の仕組みをまとめてみましょう。さらに,日本企業においては育成責任を個人にすべて委ねることが難しいという労働市場の特徴がありますので,個人の自律的な成長をサポートするOJTとOff-JTの連動,コーチングが重要となることを,第4節の内容をもとに確認し,よく似たいくつかの事例を集めて比較検討すると理解が深まるでしょう。
〔2〕所属組織において,教育・研修の効果をどのように測定しているか,人事部にインタビューしてみましょう。また,所属部署で教育・研修を実施した際,受講者に対して教育・研修の成果をどのように測定しているかを,第5節で説明したカークパトリックのモデルに基づいて分析してみてください。実際の企業へのインタビューが難しい場合もありますので,『労政時報』,『人材教育』,『月刊人事マネジメント』,『人事実務』などの人事系の専門雑誌から各社の事例を調べてみることも一案です。また,カークパトリック以外で研修効果の測定について論じている文献を検索するのも良いでしょう。いずれにせよ,分析する際のポイントは,受講者の満足度や知識・スキルの習得度といった短期的な成果,売上高や利益といった長期的な企業の収益性,それぞれに研修がどのように影響を与えているかということに加え,研修での学習を短期成果から長期的成果に結びつける工夫(カークパトリックのモデル3の仕組み)についても詳しく検討することが重要です。
〔3〕企業の採用情報や人事制度を紹介するページを閲覧すると,日本や海外のビジネススクールに,毎年何名派遣したかという実績を掲載しているのを目にします。これには,自律型キャリアに対する社会的な関心の高まりの他に,企業の宣伝のねらいがあることを指摘する人事担当者がいます。要するに,「わが社には,これだけ教育訓練プログラムが充実しています」ということをアピールする目的です。ただ問題は,MBA(経営学修士)を取得後,その人が転職すれば,企業の教育投資が無駄になってしまうことです。しかし,企業は自律型キャリアを支援する仕組みを宣伝することよって,企業の魅力度を高め,有能な人材を集めやすくなる,という効果があるようです。したがって,宣伝効果による優秀人材の採用率と転職による教育コストを天秤にかけて,自律型キャリアを支援する施策をどの程度展開するかの意思決定をすることが必要です。そのためにも,演習問題〔2〕で述べた教育効果を測定することがますます重要になってくるでしょう。
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