『経験から学ぶ人的資源管理〔新版〕』演習問題の出題意図と解答のポイント:第4章
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上林憲雄・厨子直之・森田雅也/著
『経験から学ぶ人的資源管理〔新版〕』
2018年1月刊
第4章の「演習問題」の出題意図と解答のポイントを掲載いたします。
〔1〕第 1 節でまとめているように,職務と人のマッチングの手法には,採用,異動,昇進・昇格,転籍・出向,退職があります。企業に存在する職務を担当できる(できそう)な外部の人材を見つけ出すことが採用,その逆に担当職務が企業内にない状態をつくりだすのが退職でした。企業に入ってからの職務と人のマッチング手法として,異動と出向・転籍について学習しましたが,その目的には第 4 節で学習したとおり,適正配置,人材育成,モチベーションの向上があったことを振り返っておいてください。また,第 5 節を読み直して,日本企業における職務と人のマッチングは,現時点で仕事に必要な能力を必ずしも保有していなくても,育てることによって徐々に仕事ができるようにする方式(メンバーシップ型)から,特定の仕事ですぐに実力を発揮できる即戦力を重視した方式(ジョブ型)に変化していることを理解してください。「職種別採用」や「社内公募制度」が,ジョブ型の考え方をベースにした職務と人のマッチングの具体策になります。
〔2〕所属組織の採用や異動の実際について,人事部に聞き取りをしてみてください。ただし,難しいときは,上司や先輩,同僚にどのような方式で採用され,現在の仕事に就くまでに,どういった仕事を経験したのかをインタビューしてみてください。特に,異動に関しては,職種を越えた異動(例えば,営業からマーケティング)だけではなく,同一職種内での異動(例えば,衣料担当副店長から食品担当副店長)についても,細かく尋ねてみましょう。その際,①大きく職種が変わったケース,②逆に同一職種のまま異動がほとんどないケースについては,その事実に対して,本人がどのように感じた(ている)か,さらに今後,どのような異動を望むかを詳しく聞くようにしましょう。①のケースからは「メンバーシップ型」,②のケースからは「ジョブ型」の職務と人のマッチングのメリット・デメリットを探ることができます。その際,第 4節で学習した,「メンバーシップ型主義」の職務と人のマッチングのメリット(多様な分野の幅広いスキル・知識の習得)とデメリット(専門性の低下,教育訓練コストの増加,生産性の一時悪化),および「ジョブ型」の職務と人のマッチングのメリット(教育訓練コストの低減,専門性の向上)とデメリット(経営環境の変化に応じて,臨機応変に従業員を異なる職務に異動することが困難)に照らし合わせながら,組織と個人の双方の視点から分析するようにしてください。
〔3〕例えば,おかきやせんべいの製造・販売を手がける三幸製菓では,「おせんべい採用」と呼ばれる一風変わった採用選考が行われています(労務行政研究所[2014]「三幸製菓――遠距離,出前全員面接など5コースからなるカフェテリア採用。コストは3分の1以下」『労政時報』第3880号,2014年12月26日,労務行政,39-47ページ)。おせんべい採用とは,応募者が三幸製菓の主力商品であるせんべいの魅力に関して,プレゼン資料を作成してエントリーするというものです。当社でこうした独創的な手法が用いられるのは,みんな引くくらいせんべいについて語れるインパクトのある社員は,激務で大変なはずなのに生き生きと働いている姿を見る機会があることが背景にあるようです。本文中でも述べた幅広く応募者を集める「大規模候補者群仮説」にしたがった採用は,選考コストが上昇してしまいます。ところが,三幸製菓のように,エントリーする人材を逆に絞り込むことで,採用コストを抑えながら自社に最適な応募者とのマッチングが実現できる可能性が高まると考えられます。その一方で,2015年に30人の応募者の中1人の採用という極めて限られた人数であり,すべてをユニークな採用方法に頼ることは一定の限界もあります。こうした現状から,職務と人のマッチングにおいて「大規模候補者群仮説」も有効であるという,近年の応募者の母集団形成の考え方とは逆の立場から議論することも重要です。
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