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2013年6月14日 (金)

著者より:『関わりあう職場のマネジメント』「書斎の窓」に掲載

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鈴木竜太/著
『関わりあう職場のマネジメント』

2013年2月刊
→書籍情報はこちら

book著者の鈴木先生が本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2013年6月号)にお寄せくださったエッセイを,以下でもお読みいただけますsign01


◆「自分に何ができるか」のマネジメント◆
   ――『関わりあう職場のマネジメント』 刊行に寄せて

 組織と個人の関係の変化
 「バブル崩壊後20年……」というお決まりの言葉を今更出すのも時代遅れの感がありますが、私が研究の途に入って以来、日本において組織と個人の関係は揺れ動いてきたように思います。私が研究を始めた頃は日本的な組織と個人の関係について疑問視と再検討がなされた時期で、その後、自律的なキャリアや境界なきキャリア(boundary-less career)、成果主義人事制度といった言葉が大きく取り上げられる中、時代は組織よりも強い個を求めるようになってきました。そしてその後、今度はこのような個人主義的な考え方がもたらす弊害がフォーカスされるようになりました。現在は、グローバル人材やダイバーシティといったことが耳目を集めてはいますが、突き詰めていけば、やはりそこにも組織と個人の関係のあり方をどう考えるかということが重要なイシューとして通底しているように思います。

 またこのようなプロセスにおいて、企業組織がそこで働く個人に求めるものも大きく様変わりしてきたと言えるように思います。強い個人を求める時代には、自己研鑽や自分の成果を上げていく行動がもてはやされてきましたが、その弊害が現れ始めると仲間のために働く行動も求められ、近年では柔軟に状況にあわせて自律的に行動することやイノベーティブな行動、そして改めて自己研鑽や多様な環境に積極的に適応していくような行動が求められています。もちろんこれらのどの行動も以前から企業組織では求められてきましたが、それらが強調されるということはよりそれらの行動が求められるような環境になったこと、そしてそもそもそれらの行動が組織の中で起こらなくなったからだと考えられます。

 職場への注目
 本書はこのような背景の中、職場における関わりあいを強くすることで、その職場の人々の他者を助ける支援、やるべきことをきっちりこなす勤勉、そして仕事に創意工夫をこらすといった行動を促すことができると考えています。本書では、組織行動論、経営管理論の立場から実証研究を行いながら、このメッセージを述べてきました。
 本書の特徴は、企業組織の中の職場、あるいは働く場面での職場に着目した研究であることです。もちろん職場そのものは決して新しい言葉ではなく、(最近はIT技術を利用したバーチャルな職場も少なくないですが)どの企業組織においても見ることのできる場所です。また、職場がそこで働く人にとって重要であることも、経験的には多くの人にとって自明のことでしょう。大学生が就職活動において重視する項目として職場の雰囲気をあげるのも、この現れかもしれません。しかしながら、研究においては、少なくとも私が研究してきた組織行動論では、研究がないわけではないですが、職場はそれほど大きな注目を集めてはいませんでした。むしろ個人の態度や行動に与える影響として、リーダーシップあるいは個人の特性といった個人のレベルの要因や組織文化やHRM(Human Resource Management)などの組織レベルの要因が積極的に探索されてきました。つまり組織か個人のどちらかにその焦点が主として置かれていたのです。この背景には、職場と組織をほぼ同一視する傾向あるいは職場をリーダーに置き換えて議論する傾向があったからではないかと思われます。それは決して間違いではなく、依然として組織文化やHRMなどの組織レベルの施策や要因はそこで働く人々に影響を与えるでしょうし、マネジャーの行動もそこで働く人々に大きな影響を与えるでしょう。本書はその中で、「どういった職場なのか」という点にも注目しようと考えています。というのは、フィールドワークをしていると同じ組織の中でも職場ごとにずいぶんその特徴は違うということに今更ながら気づいたからです。また職場という組織と個人の間にあるコミュニティに注目すること、職場を機能させることで、組織にとっても個人にとってもより良い関係が構築できると考えています。

 公共哲学と経営学
 本書のもう一つの特徴は、公共哲学という経営学や組織論ではそれほど触れられることのない分野の研究を援用してマネジメントの問題を考えようと試みた点ではないかと思います。浅学ながら勉強していくと公共哲学の考え方は、経営学においてかなり参考になる部分が多いと感じました。その一つがアプローチにおける特徴です。公共哲学はどのような社会を作るのかということを目的に考えていきます。故に、最初の問いとして「どのような社会が望ましいのか」「善き社会とはいったいどのような社会なのか」という問いが置かれます。この問いからスタートし、そのような社会をいかにしてつくることができるのか、というところへ論を進めていく訳です。もちろんこの問いは簡単に答えが出るものではありませんし、そもそも正答というものがあるかどうかも疑わしい問いです。経営というのも本来は、このような問い(「どのような会社組織が望ましいのか」「良い会社とはいったいどのような会社なのか」)という問いからスタートしても良いはずですし、例えば従業員の雇用の問題を考えてもその答えは単純ではないと思います。特に、経営管理論や組織行動論など組織の中の人間行動やそのマネジメントに焦点を当てている研究分野においては、その組織で人々がどのように働いているのが望ましいのかということをあまり突き詰めて考えていないように思います。組織側に立てば効率的に働いて、よりパフォーマンスが上がるように働いていることが望ましいと考えるでしょうし、個人の側に立てば、やりがいをもって成長できることが望ましいと考えるでしょう。もちろん両者は折り合う部分もありますが、コンフリクトを起こす部分もあります。故にマネジメントが重要になるわけですが、これまでの研究において、特に組織行動論においては様々な望ましさを並列して考えることはなかったですし、そもそも望ましさについての議論も少なかったように思います。その点で、公共哲学の「望ましい社会とは何か」そして「その望ましい社会を実現するにはいかにするのか」という問いの立て方は、組織の中の人間行動を研究する私にとって非常に魅力的なものに映りました。本書では公共哲学の知見を経営管理の文脈に置き換えつつ、議論を進めていますが、公共哲学を取り上げた理由は、このような公共哲学のアプローチにもあります。

 「組織において自分に何ができるか」のマネジメント
 研究の当初から本書の内容を構想していたわけではなく、いくつかのアイデアは初期の段階からあったものの、ご多分に漏れず、いくつかの研究を積み重ねていくうちに、だんだんとまとまってきたものです。その中でとても重要なアイデアを得たのは、花王の後藤卓也元会長の講演(2009年11月、現代経営学研究所主催)を聞いたときです。後藤元会長は講演の中で、新入社員の面接の話を披露されました。その新入社員は面接で「花王は自分をどう育ててくれるのか」ということを聞いてきたそうです。後藤元会長はこの最近の新入社員の言葉を否定的に捉えながら、そうではなく「自分が会社に何ができるか」ということを考えることが大事だと述べました。講演では述べておられませんでしたが、誰もが想起するようにJ・F・ケネディ元大統領の就任演説の際の国民に向けたメッセージにも似ています。
 関わりあう職場のマネジメントの中心にある考え方の一つはこの「組織において自分に何ができるか」のマネジメントだと考えています。人は近い人と関わることで、自分に足りないもの、自分に出来ること、を理解することができます。我々が家族や友人のために自分の出来ることは思いつくことができるが、国のために自分の出来ることがなかなか実感できないのと同様に、組織においても(特に若い世代には)職場において自分が出来ることは気づけても、会社全体にとって自分に出来ることを気づくことは難しいことです。しかし、職場において自分に出来ることを気づき、行動していくという経験がなければ、自分の能力や立場が大きくなった際にそのような思いを持つことが難しくなります。このような気づきは自分だけを見つめていても分かりません。他者と関わる中でこそ自分が出来ることに気づくことができるのです。この点から考えると、本書の関わりあう職場のマネジメントは、関わりあうことによってこの「組織において自分に何ができるか」を考えるマネジメントであると言うこともできると考えています。

 「職場」研究の発展に向けて
 本書は、進取的行動や組織市民行動、あるいは職務特性理論を分析概念として用いているという点で組織行動論のこれらの研究分野の研究と位置付けることもできますし、コミットメント経営から社会的関係資本を基盤とした組織という経営管理論の研究と位置付けることもできます。著者の思いとすると、それに加えて「職場」の研究として位置付けたいという気持ちもあります。組織行動論や経営管理論に限らず、経営学において「職場」に着目した研究は労務管理論や経営組織論、生産管理論など様々な研究分野において見ることができますが、これまではそれらを「職場」研究として見ることはほとんどありませんでしたが、職場に着目し、分野横断的に見ることによって見えてくるものもあります。また職場に着目することで、組織行動論や経営管理論ではある意味で条件であった、組織という枠を取り払って考えることも可能になります。つまり、異なる組織の人々が働く職場や異業種のプロジェクトといった新しい働き方への示唆を得ることができると考えています。
 本書は決して職場にかかわる研究を網羅的に検討した研究ではありませんが、今後、「職場」に対する注目がより深まり、職場が経営組織において果たす役割がより示され、さらに職場に注目することでこれまで見えてこなかったものが見えてくることを期待しています。

  *鈴木竜太(すずき・りゅうた) = 神戸大学大学院経営学研究科教授

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