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2013年6月14日 (金)

担当者語る②-1:「法と経済で読みとく 雇用の世界」

L16389

大内伸哉・川口大司/著
『法と経済で読みとく 雇用の世界』


2012年3月発行
→書籍情報はこちら

御好評いただいている本書の担当編集者に,書籍編集第二部の部員が本づくりの様子を聞きました。以下にその様子を掲載します(前編)。

編集部員A「それでは,今回は『法と経済で読みとく 雇用の世界』を取り上げて,担当編集のOくんに本づくりの裏側をインタビューしたいと思います」
編集部員B「よろしくお願いしまーす」
担当編集O「よろしくお願いします」

★刊行してから・・・
編集部員A「まず,はじめからアレなんだけど^^; ,年始からの品切れはちゃんと解消されたの?」
担当編集O「はい。ひと月近く品切れになりましたが,ちゃんと解消しました。2012年末の日経新聞ランキング掲載以来,みなさんには本当にご迷惑をおかけしました。年始の始業日から4日間だけで年末からあった在庫があっという間に全部売れたんですよ。『週刊ダイヤモンド』の「2012年ベスト経済書 年末年始に読みたい43冊」で第9位に取り上げていただいたときにも売り上げが伸びたんですが,12年末の日本経済新聞の「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」で第1位に選出していただいたことで,さらに注目していただけましたね。僕としても初めての経験でしたし,とてもありがたく思っています」
編集部員B「ふだん,私たちの編集部は法律/法学の先生とはかかわりが少ないわけですけど,法律の方の先生とはうまく本作りができたんですか?」
担当編集O「先生おふたりとわれわれも混ざって,そうとうに議論を重ねながら執筆を進めていただきました。著者のおふたりは,執筆を始める前からも交流があったということで,大内先生にリードしていただきながらも息もぴったりでした」
編集部員B「ご執筆をお願いしたきっかけはなんだったんですか?」
担当編集O「以前から労働問題に関心があったんですが,大内先生が,当時『法学教室』で連載されていた「Live! Labor Law」を読んでいて,その連載をもともと担当していたのが法律書の編集部のSくんでした。それでSくんにそのことを話したりしているうちに,僕たちもふたりで議論をするようになって,労働問題に法学と経済学の両面からアプローチするような,一般向けの本を作りたいね,という話になったんです」
編集部員A「この本ってさ,もしかして始めはもっとむずかしい法と経済の研究書をつくる,っていう企画だったんじゃなかった? 私たち,ふだんはあんまり法律の編集部と一緒にやることってないよね,実は」
担当編集O「いえ,特にそういうわけではなかったです。当初はもっと会社の内部の話が多かったですが。誰でも働いているうちにいろいろな問題にぶつかると思いますけど,それが法学的にどのように斬れるのか,経済学からはどのように斬れるのか,両者の視点をあわせることでどんなことがわかるのか,といったことを一般向けに説明していく本が作りたいね,ということで提案しました。大内先生の連載を読んだのも『法学教室』が毎月編集部に届くからですし,そのもともとの担当が同期のSくんということもあって話がしやすかったというのもあります。違う部署に所属していたものの,そうした経緯からふたりの連名で企画提案することにしました。Sくんがいなかったら,そもそもこの企画自体提案できていませんでした。この本の「はしがき」でも書いていただきましたが,カッコつけて言えば僕たちとしても法学(部門所属者)と経済(担当者)の協働ということで,大きな意味がありました」
編集部員A「なるほどね。『法律の編集部と一緒にやろう』っていう話はそうして生まれたわけか」
担当編集O「大内先生は,その『法学教室』の連載がとてもおもしろかったんです。高度な議論だったんだと思いますけど,それでも,僕のような初学者でも読み進めたいという気にさせる筆力を持っていらしたことが一番大きかったと思います。また,すでに経済学者の先生方とも解雇規制などの分析を中心に共同著作はありましたし,有斐閣でも編著で『雇用社会の法と経済』という書籍をすでに出版されていた時期でした。なので,お願いして実現できたらおもしろそうだな,と」
編集部員A「おふたりで書かれたことでとくに変わったこととかはあった?」
担当編集O「経済学者の川口先生は,とりわけ実証研究でたくさんの業績をあげてきた方なんです。だから,実際の労働市場や雇用社会で起きているようなことをふまえて,データを用いて分析するという姿勢も反映させつつ,実証的な研究もたくさん紹介していただきました。法律の目的や法学のロジックと,経済学側のロジックを突き詰めていって,たとえば『ある法律ができたときの環境と現在の環境が変わってしまっていて,もともとの目的にマッチしないような効果や,考慮の外にあったところへの(マイナスの)波及効果が出てしまっていないか』とか,もっと言うと『働く人を保護するために作られた法律が,実際には働く人びとや企業の行動を歪めてしまって,逆説的な結果におちいってしまっているのではないか』とか,労働現場と密接に関連した労働法に対してそういう実証的な視点からの議論もふまえながらストーリーをつくっていただけたんじゃないかと思います」
編集部員B「本全体の趣旨が,そういう感じだったんですか?」
担当編集O「そうですね。いろいろな働く現場のシーンを取り上げていただきましたが,話の流れの大筋は労働法の議論からでしたね。ただ,もちろん労働法をきちんと体系的に解説していくという本ではなくて,読みやすいスタイルをとりつつも労働法の意義や現代の労働市場での効果・影響も経済学の視点も取り入れながら検証していくような本が作りたかったんです」
編集部員A「法律の本ってふつうの人にはハードルが高いよね。難しく見えちゃう(苦笑)」
担当編集O「そう,そういうのじゃなくて,たとえばある法律はこういう目的や趣旨で考えてつくられたもので,法律を考える側の人はこう考えている。一方,経済学の視点や,実証分析で確認されたような現実に起きていることと照らし合わせて考えていけば,どこかにミスマッチなんかもあって,そこを徹底的にみつめることで新しいことがわかるんじゃないかと思ったんです。
編集部員B「なるほど~」
担当編集O「刊行後にいただいた意見として,本の議論が法律に引っ張られ過ぎているんじゃないの,というお話もうかがったんですが,それでも,実際に法律を考えている側の人と議論するには,経済学の主張を言いっぱなしにするのではなくて,現在の法体系や理念などもふまえながら議論していかないと,なかなか噛み合ったものにはならないのではないかとも思いました。表面的には法律関係の内容が多く見えますが,経済学の研究から得られた知見もたっぷりつまっています」

★著者と編集者の仕事・・・
編集部員A「著者会合はどんな感じだったの? 何度もやった?」
担当編集O「だいたいの章は,章立てとかトピックを決めるまではお会いして話し合う機会も多かったんですけど,いざ原稿を書き始めようとなってからは,メールでのやりとりが中心でした。たとえば,まず川口先生のほうがある章のテーマに基づいて問題提起や経済学サイドの論点を書いて,大内先生がそこにストーリーをつけつつ法学の議論も盛り込んでいき,さらにそれに川口先生が書き加えて,そこに大内先生がまたコメントを入れたり修正したりして……,みたいな。でも,完成段階では丸々2日間,ずっと有斐閣の会議室に閉じこもって,その場で議論しながら原稿を調整していく,という作業をしました。ここまでできる本はなかなかないですよね。先生方の熱意にも頭が下がります」
編集部員B「すごいですね! メールのやりとりなんかも多かったでしょうね~」
担当編集O「メールいっぱいしましたよ~。われわれのコメントを入れる機会もたくさんいただいたので。とても議論のやりとりが多い本でしたね。僕は法学のことは正直ほとんどわかっていませんでしたが,その意味でもすごく勉強になりました」
編集部員A「構成は誰が決めたの?」
担当編集O「章構成はおふたりで議論して,という感じでしたが各章のスタイルのベースは大内先生ですね」
編集部員B「はしがきのAさんBさんのくだり,すごくよかったですよね。それぞれが法と経済の視点を端的に表しているって。『あ~,なるほど』って思いました」
担当編集O「ありがとうございます^^ はしがきの,冒頭の会話を受けた『Aさんは人情家』『Bさんは冷静なリアリスト』『Aさんの発想は解雇をめぐる法学的思考』『Bさんの発想は経済学的思考に近い』という部分は印象的ですね。労働法って,どちらかといえば『目の前の労働者を守る,紛争を解決するにはどうすべきか』っていう発想らしいんですよ。でも,それに対して,たとえば『規制をしたら,まだ会社で働いていない,労働市場に入っていない人への影響はどうか』『ある年代を保障するための規制が,他の年代や企業に与える影響はどうか』っていう視点も考えられるわけです。そう考えると,やっぱり話が違ってくるわけですよね。ふつうに働いている僕たち労働者は年齢も性別も属性も学歴も身体も…,本当に多様なんですね。そうした多様な個人と,そういう法律がどう絡むのか,実は思ってもみない影響もあるんだなぁということが実感できました。本を作っていくなかでかなり勉強になりましたね」
編集部員A「なるほどね。でも,そういう話って,議論がすぐに古くなったりしない? 法律が変わっちゃったりとかして」
担当編集O「そうなんです。実は,もう変わり始めちゃってるんです,労働法。だから,それに対応するようなかたちでパンフレットを作ったり,それをネットに上げていたりもしているんですけど(パンフレットはこちら)」
編集部員A「ああ,そうだよね。そういう対応,必要になってくるよね」
担当編集O「はしがきにはここのURLを載せていますし,誰でもフリーで見られるようにしてます」
編集部員B「いずれは改訂する話とかも考えてますか?」
担当編集O「そうですね。改訂も考えていこう,っていう話もあります」

   (つづく)

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