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2013年3月19日 (火)

著者より:『地域福祉援助をつかむ』「書斎の窓」に掲載

177147岩間伸之・原田正樹/著
『地域福祉援助をつかむ』

2012年10月発行

著者の岩間先生と原田先生が本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2013年1月号)にお寄せくださいましたエッセイを,以下に転載いたします。

◆ソーシャルワークの新しい潮流を創造する◆
  ――『地域福祉援助をつかむ』 を刊行して

岩間伸之・原田正樹

 1 今日的な課題と向き合うソーシャルワーク
 昨今の社会福祉の分野では、 社会的孤立や社会的排除といったテーマが大きな関心を集めている。 自殺、 孤立死、 ひきこもり、 虐待、 DV、 無職・失業、 触法した障害のある人、 刑余者、 生活困難な外国籍住民、 多重債務者、 あるいは東日本大震災で被災した住民など、 さまざまな人たちが 「生活のしづらさ」 に直面し、 何らかの援助を必要としている。

 こうした背景には、 本人の生きる意欲の喪失や他者との関係の断絶、 単身世帯の増加や家族機能の脆弱化、 さらには地域の人間関係の希薄化など、 複雑な要因が幾重にも錯綜している。 その背景には、 地縁・血縁の瓦解を含めた社会関係の変容が深く影響を及ぼしている。
 ソーシャルワークとは、 本人の生活の場を舞台として、 生活のしづらさを抱えた当事者本人が、 生活環境や社会 (あるいは社会資源) との関係を結びながら課題の解決やニーズの充足ができるように支えることである。 まさに、 今日的な課題に対応していくことが求められている。
 しかしながら、 一方で社会福祉は 「制度」 によって規定された面が多く、 対象者別に縦割りになり、 その枠組みのなかで業務を行ってきたために、 新しいニーズに対して迅速に、 柔軟に、 的確に対応できていないという課題も深刻である。 国民のニーズや生活課題の多様化により、 現行の制度では対応できなくなっているということである。
 二〇〇〇年一二月に出された 『「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」 報告書』 (厚生省 〔現厚生労働省〕 社会・援護局) では 「社会福祉の制度が充実してきたにもかかわらず、 社会や社会福祉の手が社会的援護を要する人々に届いていない事例が散見されるようになっている」 という指摘がなされているが、 きわめて的を射たものといえる。 それゆえ、 生活支援をしていくためには、 多機関に所属する各専門職が協働したり、 必要に応じて地域住民も巻き込みながらネットワークを組んで対応することが求められるようになっている。
 加えて、 援助の起点を援助する側 (ワーカー側) に置くのではなく、 援助される側 (クライエント側) に置くという潮流がますます強くなってきたことも今日的な視点である。 ソーシャルワークの基本的な視座として、 クライエントの 「問題」 だけを抽出し、 それを援助の対象として焦点化するのではなく、 クライエントを全人的に、 またクライエントの生活を全体的にとらえる視点が不可欠であるとされてきた。 今日的な援助では、 ますますその必要性が強調されるようになっている。 各専門職が介護、 子育て、 疾病、 所得、 家族・近隣関係といった各部面へのアプローチを、 それぞれの専門性に依拠して個別に働きかけるのではなく、 まずクライエント本人の生活を中心に据え、 専門職等の支援する側が連携してトータルに本人にかかわっていくことが求められる。

 2 社会福祉基礎構造改革とソーシャルワーク
 硬直化と細分化の傾向が強まる従来の福祉制度に対して、 いわゆる社会福祉基礎構造改革では抜本的な改革が試みられてきた。 「地域自立生活支援」 が援助の目標として掲げられ、 地域福祉を基軸として展開していく方向性が示された。 たとえば、 従来の病院や施設での入院・入所から、 在宅生活を中心とした 「地域移行」 にむけた施策が打ち出されたり、 介護保険制度では、 包括的な支援をする拠点とした 「地域包括支援センター」 が各地に設置されてきた。
 このような一連の施策は、 地域福祉の強力な推進としてとらえることができる。 二〇〇八年三月に出された 『これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書』 (厚生労働省) においては、 住民と行政の協働による新しい福祉として地域における 「新たな支え合い」 の重要性が指摘され、 そこでは住民の主体的な参画を促す 「共助」 のあり方が強調されている。 民間でできることは民間で、 また地域でできることは地域でという行財政改革の影響は社会福祉にも波及し、 従来からのこうした地域福祉の考え方を後押しすることになった。
 「地域福祉援助」 との接点でいえば、 地域の生活課題をその地域を舞台として解決することにつながる。 ここでいう 「地域で解決する」 というのは、 地域の福祉課題を当事者、 家族、 地域住民、 専門職、 行政等が協働して解決していくことをさすものである。 地域におけるさまざまな生活のしづらさの解決に際して、 専門職任せにするのではなく、 地域住民の参画によって解決するという新しい問題解決のあり方が模索されるようになっている。

 3 「地域福祉援助」 という考え方
 「地域福祉援助」 とは、 二つの概念を含んだ新しい考え方である。 それは図1で示したように、 「地域を基盤としたソーシャルワーク」 と 「地域福祉の基盤づくり」 を相互に関係のあるものとして一体的にとらえて展開しようする実践概念である。 こうした地域福祉援助が求められる背景には、 この両者が理論的にも実践的にも今や切り分けができない状況にあることが関係している。 つまり、 近年求められるソーシャルワーク実践と地域福祉の推進とは深く重なるものであり、 また両者を一体的にとらえることで、 個別の事例にも地域福祉の推進にもより効果的な実践をもたらすことができる。
図1 「地域福祉援助」の概念
 さらに、 図2では、 地域福祉援助における両者の関係を、 それぞれの機能面から図式化して整理するとともに、 本書の構成との関係も含めて示した。 図示したように、 地域福祉援助は、 三つの機能から構成される。 「個を地域で支える援助」 と 「個を支える地域をつくる援助」、 そして 「地域福祉の基盤づくり」 である。 地域を基盤としたソーシャルワークは、 とを射程に入れた実践であり、 地域福祉の基盤づくりは、 とを包含する概念として位置づけている。
図2 「地域を基盤としたソーシャルワーク」と「地域福祉の基盤づくり」の位置づけ
 図中の横U字型の矢印は、 「地域福祉援助」 において重要な意味をもっている。 地域を基盤としたソーシャルワークにおいては、 日常生活圏域における 「個を地域で支える援助」 と 「個を支える地域をつくる援助」 を同時並行で推進する点に特徴があるが、 さらに複数の地域における実践を束ねていくことによって、 の 「地域福祉の基盤づくり」 につながることになる。 さらに、 同時並行で、 の 「地域福祉の基盤づくり」 の側からの 「個を支える地域をつくる援助」 を活性化するアプローチも重要となる。
 そうした蓄積によって、 「地域福祉の基盤づくり」 の推進が 「個を地域で支える援助」 という個別支援に寄与することになるという円環的な関係にある。 横U字型の矢印がに戻ってきた時点で、 螺旋状に底上げされる形で、 地域の福祉力が向上していくことになる。
 「地域を基盤としたソーシャルワーク」 と 「地域福祉の基盤づくり」 は、 焦点を当てるシステムの大きさに違いがあっても、 いずれも地域の諸問題の解決に際し、 専門職のみならず当事者を含めた地域住民が主体的に関与するという地域福祉の基本的な考え方に基づいている。 さらに、 その延長線上に、 地域住民が主体的に社会に参画していくという成熟した市民社会の構築と共生文化の創造が位置づけられることになる。

 4 実践を後押しする理論とテキストをめざして
 本書は二部構成になっている。 第Ⅰ部は、 「地域を基盤としたソーシャルワーク」 について、 第Ⅱ部では 「地域福祉の基盤づくり」 について述べている。 これらは個別援助を地域へと広げていくベクトル (第Ⅰ部) と、 一方で地域援助を個別の支援へとつなげていくベクトル (第Ⅱ部) の両方を視野にいれている。
 「地域福祉援助」 のダイナミズムを理解するためにも、 unit で全体像をつかんだうえで、 unit ①からunit までを通読してもらえると、 その必要性と意義が伝わるはずである。 そのために 「モデル事例」 をすべてのunitで用いることにしたことも本書の特徴である。 長男から虐待を受けているクライエントに対応するソーシャルワーカーの動きを追いながら、 やがて本人の生活が落ち着き、 平穏な生活を取り戻すまでの過程を記している。 同時に、 本人が暮らす地域にワーカーが働きかけながら、 地域が本人を受け入れ、 支えあっていくまでの展開も描いている。 これらの事例の動きに各unitの内容を反映させている。
 本書がこうした編集をした背景には、 「地域福祉援助」 という理論が、 実践を後押しできるものでありたいという願いからである。 そのことによって、 実践の質が変わり、 新しい地域福祉システムが構築され、 「地域福祉援助」 が具現化していくことを期待したい。

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