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2012年10月 9日 (火)

著者より:『〈先取り志向〉の組織心理学』 「書斎の窓」に掲載

173859古川久敬・山口裕幸/編
『〈先取り志向〉の組織心理学――プロアクティブ行動と組織』

2012年3月発行
→書籍情報はこちら


pen編者の古川先生が,本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2012年9月号)にお寄せくださいましたエッセイを,以下に転載いたします。

◇「想定外」や「未曾有」に,人はどう立ち向かうのか
 ――『〈先取り志向〉の組織心理学』を刊行した背景◇

このほど,『〈先取り志向〉の組織心理学』と題する書籍を,山口裕幸氏とともに編集刊行した。

わが国の外と内で,誰もが知っているように,経済状況をはじめ,大きな変化が続いている。組織の充実した未来は,現在の先に必ずあるわけではない。個人についてもそうである。

これから組織と個人が取り組む課題は,これまで経験したことがなく,成功法則の持ち合わせのない「未経験課題」が増え続けている。

本書では,そういう未経験の状況や課題に,組織と個人が,変化を先取りしながら,能動性や自発性を基調として向き合い,どうプロアクティブ(proactive)に取り組むかについて,気鋭の研究者によって,組織の現実を押さえ,かつ最新の研究成果を引きながら,組織心理学の重要テーマと関連づけて論述したものである。

本稿では,編集刊行にあたって抱いていた問題意識や議論の背景について,もう少し敷衍しておきたい。

1 「想定外」や「未曾有」には2つの方向がある

昨年の東日本大震災を契機としてといってもよいと思われるが,このところ頻繁に,「想定外」や「未曾有」の言葉が聞かれるようになった。「見込み」や「想定」は当たることが多いのか,それとも外れることが多いのか,個人の感じ方は分かれるであろう。

「蓄音機に商業的価値はまったくない」(トーマス・エジソン,1880年,自分の発明について助手のサム・インスルに)

「長距離移動の手段として,自動車が鉄道に取って代わるなど考えるのは,たわいもない夢である」(アメリカ道路協議会,1913年)

「ベーブルースが,投手から打者に転向したのは大間違いだった」(野球殿堂入りの大打者 トリス・スピカー,1921年)

「世界で,コンピューターの需要は5台くらいだと思う」(IBM会長 トーマス・J. ワトソン,1943年)

「個人が家庭にコンピューターを持つ理由など見あたらない」(ディジタル・イクイップメント社長,1977年)

今にしてみれば,これらの見込みや想定(ジョエル・パーカー著 仁平和夫訳『パラダイムの魔力』1995年,日経BPより引用)はいずれも大きく外れている。それぞれの専門家にしてである。ただ外れたとしても,それは関係者にとって望ましく,歓迎すべき「嬉しく愉快な」方向での想定外であり,それこそ未曾有の好況を手にすることになる。

2 今日起きている事態や状況変化の悩ましさ

見込みや想定は,望ましくない方向にも外れる(もちろん想定通りもある)。いずれの方向に見込みが外れるかによって,図に示すように,組織内の活動や成員の心理や行動の様相は大きく異なる。

かつて70年代,80年代の日本社会は,拡がりや伸びは望ましい方向に外れて,未曾有の高度成長と好景気を謳歌した。「奇跡の国ニッポン」と称された理由は,想定を超えるところにあった。組織と個人の持つパラダイム(発想と方略)はよく機能し,効果を上げ,一段と強化された。わが国の働く人々はこぞって気持ちが大きくなり,自信も持った。

それからすると近年の様相は全く逆で,為替レート,経済成長や税収,技術のコモディティー化(平準化),あるいは安心や安全神話など,落ち込みや縮小が定常的に続いて,見込みや想定は,厳しくつらい方向に外れている。自前のパラダイムは劣化し,有効性が揺らぎ,効能を失いつつある。かつてとの様変わりに直面して,働く人々の間に困惑や動揺が広がっている。

そしてさらに,昨今のわが国の組織状況は,見込みが厳しい方向に外れるだけに留まらない。これまで効果を発揮し,日本の強さの秘密とさえいわれ,自らも自信と誇りを感じていたパラダイムが,「通用しない」状態に陥っている。環境が変わって,これまで頼りにしてきた発想と方略が機能不全を起こしている。それに伴い,「こんなはずないのに,何で」のいらだち,「何とかならないのか」の焦りが高進しているようである。このような事態の結末は,愛着を持って進めてきた活動や事業からの撤退である。

通用しなくなった原因は,グローバルな規模での外的要因の根本的な変化にあるのではない。その根本的変化により生まれた新たな状況に,これまでの前提を見直し,発想を変え,効果的な方略を創り出し,対応できていないところにある。前提の問い直しと,発想と方略の更新をできなかった(怠った)ためである。この状況を打開し,反転攻勢をかけるには,まずは発想や方略が「通用する」状態に持っていく必要がある。

ここでみてきたような時間経過による状況変化は,社会レベルでも,組織全体レベルでも,あるいは組織内の部門や部署レベルでも,広く認められる。そして企業組織か公的組織であるかを問わない。

3 パラダイムシフトと未経験課題への取り組み――先取り志向

見込みや想定が厳しい方向に外れ,発想や方略が通用しない事態におかれている組織と個人に求められることは,先を見据えながら,「新たな課題」を設定し,それにプロアクティブに取り組み,何とか発想と方略が通用するように持っていくことである。あるいは伸びる領域を新たに見つけ,そこで機能する新規の発想や方略を創出することである。

これらは,従前の発想と方略の効果性にかげりの兆候がうかがえる段階で,早めになされること,すなわち「先取り志向」が望まれるが,それ自体,容易ではない。

新たに設定する課題は,これまで経験したことのない課題,すなわち「未経験課題」であるに違いない。

未経験課題に対して,個人や集団が,どう反応するのか,どういう条件があれば能動的,意図的,そして先取り志向でプロアクティブに取り組むのかの研究は少ない。従来のモチベーション理論や学習理論は,「経験課題」の継続や反復の問題に絞った議論しかしていない。

未経験課題は,それに取り組むにあたって,少なくとも次の5つを求める。まずは,①パラダイムシフト,すなわちこれまでのあてにしていた前提,認識や価値観,そして発想の棄却と更新が必須。②参考となる直接的なモデルはなく,質と量の両面で新たなチャレンジと開拓が必要。③課題そのものがあいまいで,それに到達するまでの方略(方法やシナリオ)も不明瞭。すなわち困難度が高い。④旺盛な意欲はもとよりのこと,新たな知識やスキルの学習が必要。そして⑤自組織(自部署)外との新たな連携や協力関係の構築が必須である。

いずれも確実に満たされなければならないが,ハードルは低くない。例えば,前記の①は,これまでの経験からくる認知枠組みや判断の単純化(ヒューリスティック)の影響によって発想や方略の棄却や更新は基本的に脅かされている。意識改革が,なかなか進まないことは,経験的によく知られている。

また②のチャレンジの湧き具合も心配である。中堅やベテラン,そして若きも,「身の丈」にとどまり,失敗をとても恐がり,チャレンジを忌避する傾向にあることなどが指摘されている。

③のあいまいさの克服も易しくない。インターネットに頼り,何についても居ながらにして,「見えた感じ,つかめた感じ」を得ながら活動している今日,設定した課題の適切ささえ定かでない中で,進む道筋を手探りで自ら選択,設定していく労力や手間,ストレスは大きなコストとして映り,敬遠や躊躇を生む可能性がある。

そして,これまで活動の結果(成果)の良し悪しに偏向した評価を続けてきた組織においては,経営課題を意識しながら「有用な能力を学習することを大切にする姿勢」が学習されていないために,④の自ら学習し,自己成長と組織の成長につなげることが実践できないかもしれない。

さらには,今日,イノベーションは,個人単位や部署単位で成し遂げられることは少なくなり,組織内外の他部署との新たな連携(リンケージ)や協力関係が築かれ,新しい方略や価値が生み出されることで実現するようになっている(前記の⑤)。そのためにも,確かなコミュニケーション能力,すなわち読み,聴き,書き,伝える力,あるいはまた明確な論理性と情緒性を適切に使い分ける力が問われる。

コミュニケーション能力は,大学生が採用試験に臨む際に重要なこととして理解されているところがあるが,そうではない。仕事に就いた後,これまでみてきたような「新たなことを発想し,方略を考案ないしは更新し,それを実践する」上で不可欠であることから,求められている。これらのコミュニケーション能力の水準に懸念もある。

4 本書の内容構成

ここまで述べてきたことなどを基本的な問題意識として持ちながら,これから直面する組織状況に適切に対処するための理論的,実践的な拠り所が,『〈先取り志向〉の組織心理学』の8つの章において述べられている。

すなわち,プロアクティブ組織の特性とプロアクティブ組織の成立条件の確認(第1章)に始まり,これからの人材育成(個人の成長)における経験と対話の重要性と効能(第2章),前向きに人事評価の意義をとらえ,自分自身のための積極的な活用方策(第3章),そして組織やメンバーの成長を意識し,自らも成長する主体的なリーダーシップ(第4章)が明快に述べられている。

さらには,プロアクティブに活動するためのチーム力の育成と強化(第5章),組織活力の源泉としての組織コミュニケーションの将来課題(第6章),これからの個と組織の関係のあり方ともかかわるワーク・ライフ・バランス(第7章),そして最後に,プロアクティブ性や企業統治と密接に関係する企業の社会的責任の問題(第8章)が取り上げられている。

古川久敬(ふるかわ・ひさたか,日本経済大学大学院教授・九州大学名誉教授)

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