担当者語る①:「現代韓国を学ぶ」
小倉紀蔵 編
『現代韓国を学ぶ』
2012年3月刊
→書籍情報はこちら
――まず,この本をつくることになったきっかけを教えてください。
元々は,近年さかんになっている日韓文化の交流から,日韓関係の変化を描くような本を書いていただきたいと考えていました。著者は当初から韓流研究の第一人者の小倉紀蔵先生にと思っていて依頼に伺ったところ,先生はそういう本はもう書いたので,むしろ網羅的なテキストをおつくりになりたいとのことでした。韓国の政治・経済・文化を網羅的に解説した本がないからとのこと。テキスト刊行の多い有斐閣としても有り難いお申入れでしたので,先生のご提案のセンで企画がスタートしたんです。
――何でテキストなかったんですかね?
何でですかね。私が調べてみても,個別テーマの研究書や,歴史についての本,または一般書はありますが,大学テキストになりうる総合的な入門書はありませんでした。
――第2章のサブタイトルに「ピビンパ・コスモロジー」とありますが,これって,いわゆる「石焼ビビンバ」の「ビビンバ」と同じですか?
そうです。
――専門家は「ビビンバ」とは言わない?
そういうわけじゃないと思いますけど,韓国語の発音をカナにすると「ピビンパ」のほうが近い感じなのかな。韓国語って,日本語にない音があるんで,カナに変換しにくいところがあるんですよ。激音・濃音とか,パッチムとか。(ここで実際に発音。でもカナには起こせません)
――おぉ。
この本をつくることになって,韓国語講座に3日通いました。
――へぇー! でも,韓国語を耳で聞いていると,すごく日本語に近いなぁと感じることが多いです。
それは,漢字語が多いからだと思います。
――韓国ではいまはあまり漢字を使わないという話も聞きますね。
人の名前は例外を除いて漢字表記をもっているわけですけどね。あと,たとえば,新聞名(『朝鮮日報』のような)なんかは漢字ですね。これまでハングル使用を徹底しようとしていましたが,近年は漢字復活の動きもあるようです。
――この本を担当して,自分の中で何か変化があったりしましたか?
この本の特徴として,イデオロギーにとらわれていないということが言えると思います。韓国への眼差しって,日韓の歴史的な経緯もあって,左右対立のような様相があったと思います。それで,アカデミックな世界とか,いわゆる知識人の間では,左っぽい立場の考え方が強かった。私も,どちらかといえば,そっちの文脈で見たり考えたりしていることが多かったと思ってるんですが,本書の歴史の章のお原稿を拝読したりして,それだけじゃないのかなぁと。「迷い」が生じたと言うのが一番正確な表現ですかね。日本統治下の実際の様子とか,従軍「慰安婦」の話題とかも扱われているんですが,どういうふうに考えるべきなのか…。私のなかでは一概に言えないというか,答えは出ないんですけど,厳密な歴史的事実を事実として認識することと,相手の感情に寄り添って理解することと,両方やっていけたら,日韓の理解も深まるような気がします。
――最後に何かあれば。
隣国であり,韓国人の友人もいたので以前から興味があった韓国ですが,遅ればせながら3年くらい前から韓国ドラマをみるようになって,そのうちある韓国人グループにハマって。「韓国好き」の友人・知人が増えるにつけ,みんなもっと韓国のことを知りたい!と思っているのを感じました。韓国についての知識が増えたら,好きな俳優,アーティストのことをもっと理解できるようになる。そこから草の根文化交流が広がっていけばいいなと思います。本書は少しレベルが高くて,気軽に読めるものではないかもしれませんが,興味がある章だけでも読んでいただいて,あ~,そうだったのか,と「腑に落ちる感」を味わっていただけたらと思います。
(文責:H,インタビュアー:T)