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2012年5月31日 (木)

著者より:『ソーシャル・ネットワークと組織のダイナミクス』 「書斎の窓」に掲載

163843中野 勉 (青山学院大学教授)/著

『ソーシャル・ネットワークと組織のダイナミクス
 ――共感のマネジメント』
2011年12月刊

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pen著者の中野先生が,本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2012年5月号)にお寄せくださいましたエッセイを,以下に転載いたします。

◇ソーシャル・ネットワーク、組織と戦略について◇

は じ め に
 私はビジネススクールで「ソーシャル・ネットワークと組織と戦略のダイナミクス」という授業を担当しています。経営戦略、組織論と社会ネットワーク分析(social network analysis)を統合した企業などのマネジメントについての授業です。近年日本でもネットワーク分析を応用した研究が盛んになりつつありますが、その多くは物理や工学系、情報処理など、複雑系のシステム、オンラインのコミュニケーションの定量分析やエージェントの行動についての数理分析の応用です。同時に、社会学分野などでは、地域コミュニティーのソーシャル・ネットワークなどの研究も見られますが、日本での組織や経営戦略分野でのネットワーク分析の応用は欧米に比べ大きく遅れています。このことが昨年啓蒙書として『ソーシャル・ネットワークと組織のダイナミクス―共感のマネジメント』を執筆した理由のひとつです。

 本稿では、ネットワーク分析の経営や組織への応用の可能性について触れます。社会ネットワーク分析を本格的に研究するようになって一五年程になりますが、その基礎はニューヨークのコロンビア大学大学院社会学部で学び、アメリカ社会学会(American Sociological Association)やヨーロッパの学会などを中心に活動してきました。世界中から集まってくる研究者の多様性、分析レベルの高さと応用力、データ収集への執念、リサーチ・デザインの革新性と理論への深い理解に時に感心させられます。私の博士課程の研究では、産業集積に関し企業間ネットワークを研究し、その研究はカリフォルニア大学のダグラス・ホワイト(Douglas R. White)教授との大規模ネットワークの研究に発展し、集積のメカニズムの本質に迫ったと考えています。このような研究課題を追求すると、組織論や経営戦略への深い理解、企業経営の広範な知識、文化や制度的なものの見方、リサーチャーとしての判断力と経験が求められることを実感します。

アプローチの特徴
 社会ネットワーク分析は色々な社会現象をその対象とします。その現象の裏側に存在する社会構造をノード(node)間の関係性から捉えて説明しようとする方法論(relational approach)でもあります。分析の意味については、実に色々な立場や考え方が存在し、欧米を中心に何十年にも亙り学術的に広く議論されて来ました。一般的に、狭義の社会ネットワーク分析としては、計量分析として厳密に精緻化された分析のことを指す場合が多いのですが、広義の社会ネットワーク分析には計量分析をともなわない定性的な研究や記述的研究も多く存在します。

 近年情報処理や経済物理学などから、精緻な計量ネットワーク分析が行われることも多くなりました。そこには、オンラインのコミュニケーションや市場構造の分析など、その現象を作りあげている人間と組織や社会の制度や文化の分析に深く切り込んでいない場合も多く、そういった研究には物足りなさを感じます。社会学理論において、かつてホマンズ(George Homans)が“Bring Men Back In”(Homans 1964)という論文を書いたことがありますが、それは二〇世紀の半ばにコロンビア大学のラザースフェルド(Paul Lazarsfeld)らが社会科学に統計手法を持ち込み、その後タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons)がブラック・ボックスを使い、システム論で社会構造や文化を説明しようとした(Parsons 1951)流れに対する批判でした。そこには人間の姿が見えず、こうした分析は人間とはどういうものであり、人間が作る組織や社会とはどういうものかという考察がないと批判したのです。

 組織のマネジメントとしての企業経営を、ネットワーク分析の視点から説明しようとすることは、一言で言えば、指揮命令系統による階層関係であるフォーマル(formal)なヒエラルキーを基本とした企業という組織を、友人関係など、人と人とのインフォーマル(informal)、即ち、非公式な関係から成り立っているコミュニティーとして捉えようとするものです。それは、組織とは本来人間のコミュニティーであり、フォーマルな組織の裏にあるインフォーマルな人の関係を重視する戦略マネジメント(strategic management)について、その意味を問い直そうとするものです。

ソーシャル・ネットワークとマネジメント:経済社会学からのアプローチ
 社会ネットワーク分析では、このように社会学的なアプローチが大切ですが、私自身は中でも組織論、戦略論とソーシャル・ネットワークが重なる部分を自らのリサーチのフィールドとしています。ソーシャル・ネットワーク(社会ネットワークとも呼ばれます)は社会における色々な「集団」や「企業」などの「組織」のマネジメントに大きく関わっている重要な問題であり、組織とネットワークには研究すべき多くの共通する課題があり、「組織論(organization theory)」や「経営戦略(management strategy)」に社会ネットワーク分析のフレームワークを持ち込むことで、企業の経営戦略に新たな知見を提供することができます。このような三つの軸の関係をベン図で表すと図2のようになります。このような分野は、アメリカ社会学を中心に一九八〇年代以降急速に発展した分野で、欧米では「経済社会学(economic sociology)」と呼ばれていますが、日本ではその理解はあまり進んでいません。

新古典派経済学と社会ネットワーク分析の違い:人はなぜネットワークのメンバーになるのか
 私たちはなぜネットワークに参加するのかということを考えてみましょう。例えば、ボランティア活動として川のごみ掃除に参加する場合には、参加の動機は、マックス・ウェーバー(Max Weber)の社会的行為(social action)の理論(Weber 1968)に従えば、金銭を求める「目的合理性(instrumental rationality)」ではなく、自らの価値観に基づいた「価値合理性(value-rationality)」を基本とする社会貢献であったり、同じような考えを持つ仲間との価値観の共有や、地球環境を考える社会意識への感情的な共感(affectual or emotional action)であったりする場合が多いでしょう。また、このようなイベントに毎週参加していれば、やがてはそれが習慣化(traditional action)するかもしれません。このように川の清掃作業に奉仕する仲間のネットワークの成立過程を考えれば、利益を追求する経済的な目的合理性のみがネットワークへの参加目的ではないことは明らかです。ソーシャル・ネットワークへの参加には、ひとりひとりの異なる合理的な判断の基準があり、色々と雑多なメンバーの異なる合理性に基づく動機と判断がネットワーク全体に組み込まれているのです。

 従って、伝統的なミクロ経済学においては、経済的な取引行為を考える際に、個人が合目的な経済合理性を前提に「効用の最大化」のための行動が行われ、市場の均衡点が成立したり、社会全体の効用が極大化された「パレート最適」が実現すると考えるのに対して、社会学に根差した社会ネットワーク分析においては、ネットワークの形成は、経済合理性よりずっと広い意味での個人の社会的な行為における合理性を考慮しているのです。ここに社会現象の原理をノードの関係性から分析する独自性があります。

分析の基本
 社会ネットワーク分析には一般的な社会科学の基礎である分析単位や分析レベルをどう設定するのかという分析の枠組みに大きな特色があります。その基本は「ふたつのノード(node)」の間の関係」、即ち「ノードのペアーの関係」です。人間の集団としてのネットワークでは、ひとりひとりの人間がノードということになりますし、企業間の関係を調べる場合にはひとつひとつの企業がノードとなります。また、企業内のチームの関係を分析するのであれば、ひとつのチームがノードになります。従って、具体的に企業を分析するのに、社員ひとりひとりをノードとして捉えれば、組織の構造としての社内の人間関係を会社全体で調べたり、社内の部署間の関係のレベルで調べたりすることも可能です。また、ある会社と他の会社との組織間の取引関係を調べるのであれば、ひとつの企業をノードとして捉え関係を論じることとなります。色々な社会ネットワーク分析のフレームワークや概念、そしてそのことに由来する分析の難しさがあります。

最 後 に
 社会ネットワーク分析は、組織と経営の研究にとって極めて重要かつ有効です。例えば、企業内の従業員の間のコミュニケーションを可視化すれば、色々な企業内でどのようなコミュニケーションが行われているのかが明らかになり、マネジメントはより効率の良いオフィスのレイアウトや、より円滑なコミュニケーションを試行することで、イノベーションの促進や研究開発期間の短縮が可能になる可能性があります。このようなデータは個人を特定できないようにニックネームなどを使い、コンサル会社からマネジメントに提供されることになり、コミュニケーションという個人間のセンシティブな関係を扱います。

 映画『未来世紀ブラジル』では未来社会において、個人が徹底的に情報管理され、国家によりコントロールされる姿がフィクションとして描かれました。ドイツの社会学者ハーバーマス(Jurgen Habermas1973)は、文化による国家の社会管理は空気のようなものであり、人々は何気なく新聞や雑誌に目を通すだけで、認知やものの考え方がマスメディアにより簡単に管理される可能性があることを説きました。社会ネットワーク分析は、個人のプライバシーや人間の尊厳に関する倫理的な問題に関わる可能性があり、その現代社会における意味と利用の仕方については、その分析の有効性と併せて、より深く理解することが今後研究者にとって益々重要となります。

 前作では、ソーシャル・ネットワークと組織を主題に書きましたので、次回作『ソーシャル・ネットワークと戦略のダイナミクス(仮題)』では、ソーシャル・ネットワークの個人や組織における戦略的な意味とその実践的な応用について論じたいと思います。

〈参考文献〉
Habermas, J,(1973). Theory and Practice. Boston, Beacon Press.
Homans, G. C.(1964).“Bring Men Back In”American Sociological Review 29(6):809-818.
Parsons, T.(1951). The Social System. Glencoe, IL, Free Press.
Weber, M.(1968). Economy and Society. Berkeley, CA, University of California Press.

中野 勉(なかの・つとむ,青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)

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