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2012年5月31日 (木)

著者より:『社会福祉学』NLAS 「書斎の窓」に掲載

053762平岡 公一 (お茶の水女子大学教授)
杉野 昭博 (関西学院大学教授)
所 道彦 (大阪市立大学准教授)
鎮目 真人 (立命館大学准教授)/著

『社会福祉学』
New Liberal Arts Selection
2011年12月刊

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pen著者の平岡先生が,本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2012年5月号)にお寄せくださいましたエッセイを,以下に転載いたします。

◇ディシプリンとしての社会福祉学?--『社会福祉学』を上梓して◇

◆ 昨年一二月に、杉野昭博・所道彦・鎮目真人の諸氏との共著で『社会福祉学』(以下、「本書」)を、有斐閣から刊行した。

 本書は、同社のNew Liberal Arts Selectionシリーズを構成する大学テキストの一つであり、主に社会福祉系の学科・専攻・コース等の「社会福祉学概論」「社会福祉原論」等の授業科目、および社会科学系の諸学科の「社会保障論」「福祉社会論」「福祉社会学」等の教科書として活用されることを想定してその編集・執筆がなされている。

 本書の「はしがき」では、主に、教科書として本書を使用する大学の学生や教員の方々向けに本書の編集方針を説明したが、本稿では、共著者の一人としての筆者の独自の見解も交えながら、主に社会福祉学以外の分野を専攻する(した)読者の方々を念頭において、まず社会福祉の研究教育の現状を紹介した上で、本書の編集方針や特色について若干の説明を加えることとしたい。

 社会福祉系の学科等が、一九九○年代に入るころから急速に増加したことはよく知られている。社会福祉学を基礎とする一定水準のソーシャルワーク教育のプログラムをもつ大学・短期大学等であることが入会基準となっている社団法人日本社会福祉教育学校連盟の正会員は、一四一校に及んでいる(平成二三年一二月一日現在)(1)。

 一方、社会福祉系の学科等の増加に対応して、社会福祉学の研究者も増加している。社会福祉学分野の代表的な学会である日本社会福祉学会(昭和二九年創立)は、五〇〇〇名を超える会員を擁しており、機関誌として査読制雑誌の『社会福祉学』を年四回刊行している。科学研究費の研究分野として社会福祉学は、「分科  社会学」の下にある「細目  社会福祉学」として位置づけられており、平成二三年度の(全種目合計での)応募実績は五一七件、採択実績は一八一件に達している。件数で見る限り、社会科学のいくつかの分野と同等以上の実績がある(2)。

 日本社会福祉学会の会員は、主に社会福祉学者としてのアイデンティティをもつ研究者(それは、「社会福祉プロパー」と自称する社会福祉系大学院出身の研究者とほぼ重なる)と社会福祉系の大学院生、およびソーシャルワーカー等の実務家で構成されるが、この学会の枠外での社会学、法学、経済学、政治学、地理学、経営学、健康科学等のアプローチによる社会福祉に関する研究も活発化してきている(3)。

 このような社会福祉の研究教育の状況を踏まえて、社会福祉に関するテキストを企画・編集する場合、まず判断を求められることは、一つのディシプリンとしての「社会福祉学」の固有の対象と研究方法を前提にするのか、それとも、社会福祉を学際的研究領域と見て、さまざまな学問領域における多様な研究成果を盛り込んだ内容にするのかという点である。

 日本社会福祉学会に依拠する社会福祉学の研究者の多くは、社会福祉学を一つのディシプリンとして発展させる方向で研究教育活動を行ってきた(4)。社会福祉学とはいかなる性質の学問なのかという点について、かつては、社会福祉学の研究者の間で学問的な論争が行われたこともあった(5)。しかし一九八○年代以降は、そのような議論への関心が薄れ、社会福祉の制度・政策と援助実践の個別のテーマに関わる研究に専念する傾向が強まっている。その一方で、社会学、法学、経済学等のアプローチによる研究の成果が蓄積されつつあり、それを社会福祉学の研究教育に取り入れる必要性も高まっている。

 社会福祉学の学問的性質をどのようにとらえるかという点については、四人の共著者の間でも微妙な考え方の違いがあったのだが、筆者個人の考え方は、たしかに社会福祉学は、一つのディシプリンとしての性格をもちつつあるものの、そのディシプリンの内実を豊かなものにしていくためには、学際的な諸研究との対話、そして、それらの研究の成果の吸収が重要なのではないかというものであり、この考え方は、本書の編集・執筆にかなりの程度、反映したのではないかと考えている。

 このようなことを考慮しつつ企画した本書は、「社会福祉学とは何か」を論じた序章のほか、五部二三章で構成することとなった。五つの「部」のタイトルは、「ソーシャルワークの展開(第1部)」「福祉国家の形成と展開(第2部)」「社会福祉の焦点(第3部)」「社会保障の制度と政策(第4部)」「社会福祉サービスの政策と運営(第5部)」である。

 章別構成と各章でカバーする内容を決めるにあたって考慮した事柄について、四点にまとめて説明しておきたい。

 第一に、制度論(制度・政策論)と援助論(援助実践論)のどちらを、社会福祉学にとって本質的なものと位置づけるのか、あるいは相互の関係をどうとらえるのかという社会福祉学の根本問題ともいえる問題がある。この点に関して、本書では、序章と第1部を担当した杉野昭博氏の見解にしたがって、社会福祉運営論と社会事業史研究を媒介にしつつ制度論と援助論の(再)統合を目指すという方向を示している。また、援助実践論と等置されがちなソーシャルワークについては、ソーシャルワークを、制度・政策と対比的に定義される「援助実践」としてではなく、社会福祉実践の総体としてとらえるという観点を打ち出し、その歴史的な展開過程の理解の重要性を強調している。

 第二に、制度・政策としての「社会福祉」の範囲をどこまでとするか、すなわちその範囲を、狭義の社会福祉(社会福祉サービス)に限定するのか、所得保障・医療保障等を含めるのかという、これも社会福祉学で繰り返し論じられてきた問題がある。

 社会福祉学の研究者の間では前者の考え方が有力であるが、本書の序章でも指摘したように、介護保険制度の導入などによって「狭義の社会福祉」の制度的な境界を明確にすることが難しくなっていることから、その考え方の再検討が求められている状況がある。さらに実際的な問題としては、制度・政策についての分析・記述を進めていくと、たとえば、高齢者については介護・福祉サービスを所得保障や雇用政策と切り離して論じることがある程度は可能であるが、障害者に関しては、それが難しいといった問題に直面する。また国際的にみれば、狭義の社会福祉に対象範囲を限定して、制度論と援助論を結合させて社会福祉学という学問分野を制度的に確立している例は、わが国以外にはほとんどないと考えられる。

 しかし、以上の点は、必ずしも狭義の社会福祉に対象範囲を限定することを否定する理論的根拠になるものではない。本書の序章で、杉野氏は、「生きた制度・政策研究」を目指して、援助実践の制度化と臨床化の弁証法という観点をとることの必要性を指摘し、援助実践との関連によって制度・政策研究の対象範囲が規定されるということを示唆しているが、本書の企画の段階では、この点を突き詰めて検討することはできなかった。本書では、社会福祉学の対象範囲に含まれるからという理由ではなくて、社会福祉を学ぶ上での必要な基礎的知識だからという理由で、社会保障の制度全般や、福祉国家の形成と変容の歴史の解説に、相当なスペースをさくこととしたのである。

 第三に、制度・政策を扱う場合に、一部の教科書に見られるように、現行制度の解説に終始したり、制度・政策の歴史的展開の社会経済的背景の説明に重点を置くことで、制度・政策を分析・評価する視点や方法についての説明が不十分になってしまうという事態が生じることをいかにして回避するかという課題があった。この課題については、第2部で、十分なスペースを確保して制度・政策の歴史的展開を記述する一方で、第3部で、学際的な観点に立って社会保障の制度・政策を分析・評価する際の視点や方法を、幅広く取り上げることによって対応することとした。社会保障の経済分析に関しては、わが国でもこのようなスタイルのテキストが刊行されているが、経済学に加えて政治学・社会学の研究成果も取り入れた社会保障制度・政策論の解説でこのようなスタイルを採用したという点で、第3部はオリジナルなものになっているのではないだろうか。

 第四に、制度・政策を分析・評価する視点や方法の解説を重視するという点は、社会福祉サービスの政策と運営を扱う第5部(筆者が執筆を担当)の編集・執筆の際の基本方針ともなった。ただし、第5部では、筆者が「ニード基底型社会政策・運営論」とよぶ研究枠組みによる体系的な解説・記述が試みられている。これは、主にイギリスの社会政策・運営論(social poli-cy and administration)で用いられてきた研究枠組みを発展させたものである。もっとも、このような観点、枠組みに基づく教科書の編集・執筆という考え方自体は、オリジナルなものではない。一九八○年代に三浦文夫氏がこのような研究枠組みに基づく『社会福祉経営論序説』(一九八○年、碩文社)『社会福祉政策研究』(一九八五年、全国社会福祉協議会)というテキストを刊行して、その後の研究の展開に大きな影響を与え、また、二○○○年代に入ってからは、武川正吾氏が、社会政策(social policy)全体をカバーする『福祉社会』(二○○一年、有斐閣)と題したテキストを、同様の方針で執筆している(なお二○一一年には同書の新版が刊行された)。

 その他、説明を要すると思われる点も残っているが、紙幅が尽きている。社会福祉学のテキストとしては、およそ標準的なものとはいえないというのが、この分野の事情に通じた読者の本書に対する評価であろう。しかし、かつてはあったかもしれない社会福祉学のテキストの標準というものが見いだしがたいという現実もあるのではないだろうか。いま思い返してみると、四人の著者は、本書の企画の当初の段階から、新たな視点からの問題提起を行うことで、社会福祉学のテキストの新たな標準を作り上げるための基盤づくりに貢献したいという問題意識を共有していたように思われるのである。


 (1) 社団法人日本社会福祉教育学校連盟(http://www.jassw.jp/index.html、二○一二年三月一三日アクセス)のサイトに掲載されている会員名簿による。
 (2) 日本学術振興会「平成二三年度科学研究費補助金(基盤研究等)細目別 新規応募・採択件数一覧」(http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27   _kdata/data/3-2-4.pdf、二○一二年三月一三日アクセス)による。ちなみに、「細目」としての政治学、社会学、経営学の採択件数(全種目合計)は、それぞれ九九件、二○九件、二○九件であった。
 (3) 筆者は、以前に、社会福祉学の枠内での研究と、その枠外の研究の双方を含む意味で、「日本における社会福祉研究は、ここ一○年ほどの間、量的にも質的にも際だった発展がみられた学問領域の一つである」と指摘したことがある(平岡公一「社会福祉研究の過去、現在、未来」『学術の動向』四月号、二○○八年、六六~六七頁。
 (4) ディシプリンとしての社会福祉学という観点で書かれた理論書・概説書として近年刊行されたものの中で代表的なものは、古川孝順『社会福祉学』(誠信書房、二○○二年)、および古川孝順『社会福祉原論(第2版)』(誠信書房、二○○五年)である。
 (5) 岩田正美監修・岩崎晋也編集『リーディング日本の社会福祉1 社会福祉とはなにか  理論と展開』(日本図書センター、二○一一年)には、この論争に関連する主要な論文が収録され、その論争を含む戦後日本の社会福祉学の理論的展開を手際よく整理した岩崎晋也氏の解説論文が収録されている。

平岡公一(ひらおか・こういち  お茶の水女子大学教授)

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