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2011年12月28日 (水)

著者より:『財政研究 第7巻 グリーン・ニューディールと財政政策』 「書斎の窓」に掲載

299320_2 日本財政学会/編
『財政研究 第7巻 グリーン・ニューディールと財政政策』

2011年10月発行

pen執筆者の植田和弘先生が,本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2012年1・2月号)にお寄せくださいましたエッセイを以下に転載いたします。

◆地域からのグリーン・ニューディール◆

植田和弘(うえた・かずひろ =京都大学大学院経済学研究科教授)

 持続可能な地域づくりへの起爆剤として自然エネルギーへの期待が高まっている。 震災復興構想会議の復興七原則にも 「地域社会の強い絆を守りつつ、 災害に強い安全・安心のまち、 自然エネルギー活用型地域の建設をすすめる」 とうたわれている。

 自然エネルギーというと、 そのエコロジカルな環境的持続可能性への貢献がよく指摘される。 確かに、 例えば風力発電のエネルギー源は風であり、 発電過程での温室効果ガスの排出もほとんどない。 しかし、 「持続可能な (sustainable)」 という用語は、 エコロジカルな環境的持続可能性だけではなく、 経済的持続可能性や社会的持続可能性の側面もあわせて構成されるコンセプトである。

 自然エネルギーによる発電を促進することが及ぼす地域経済・産業開発・雇用に及ぼす効果が注目されている。

 原子力発電の場合と比較してみよう。 原子力発電所が立地している地域が発電所を受け入れたのは、 やはりその経済効果に期待していたところがある。 ただ、 原子力発電の場合は高度な技術プラントであり、 部品調達などでも地元企業が入れる余地はほとんどなく、 原子力発電の直接的な地域産業連関効果は小さかった。 雇用に関してもプラントの定期点検時の作業員の受け入れとそれに伴うサービス業程度であったため、 それほど大きなものとはいえない。 結局、 原発に伴って地元に落ちるお金は、 原発立地に伴う固定資産税などの税収といわゆる電源三法に基づく交付金が主たる源であった。

 原発立地と地域にもともとあった産業との関係はあまり親和的とは言えない。 原発立地地域は農村や漁村が多い。 もともと原発立地の対象地域は人口の少ないところとされているので、 そうした地域にならざるを得ないともいえる。 必然的に原発が立地した時点における地元の産業は農業や漁業が主たる産業であった。 今回の福島第一原子力発電所のような大事故でなくても、 原子力発電所はこれまでも少なくない事故を起こしてきた。 そうした事故によって直接的な被害が生じなくても、 農産物や水産物は風評被害を受けやすい。

 風評被害は仮に補償されることになったとしても、 原子力発電の事故に対する不安が大きくなると、 そのことが産業の継続性や発展への投資を阻害し、 農業や漁業の将来展望をなくしてしまいがちである。 実際に、 業から離脱する人を増やしてきた。 そのため農業や漁業以外から所得を得られる途を探さなければならず、 それがさらに地元に原子力発電所を 「誘致」 建設することにつながり、 農業や漁業をますます衰退させていったのである。 原子力発電所の建設を契機にして地域産業に一種の負のスパイラルが働いたと言えるだろう。

 自然エネルギーの利点は、 農業、 漁業、 林業など地元の自然に依拠する産業と親和的なところである。 もともと農業、 漁業、 林業は自然の恵みを基礎にした産業であるから、 同じ自然がもたらすエネルギーを地域資源に変えて発電するので第一次産業的なところがある。 自然エネルギーは、 例えば風力発電が風況に影響されるように自然条件に規定されるのであるが、 それは言い換えれば他の第一次産業と同様に土地に固着した産業ということである。

 そうであるならば、 地域資源たる自然エネルギーを活用した地域経済活性化戦略が考えられてよいだろう。 もちろん、 これには自然エネルギーによって生み出された電力を全量買い取る固定価格買取制度がなければならない。 デンマークで風力発電が急速に普及した--現在は供給電力に占める比率は二○%以上--のはまさにこの制度によってであり、 非農業所得が得られるようになったことで、 農村地域の持続可能性も高まったのである。

 自然エネルギーによる発電は自然の潜在力を活かすものであるけれども、 高い工業力も必要である。 例えば風力発電機は部品の点数が一万点を超えるが、 組み立て産業の代表で多くの下請け企業を持つ自動車の場合でも部品の数は三万点程度であり、 風力発電機もきわめて裾野の広い部品調達産業がなければならない。 現在も風力発電機の部品供給に占める日本企業のシェアは高い。 今後日本においても風力発電への投資がすすんでいき、 部品調達に応える企業が育成されていくならば、 東北地域の産業振興や雇用にも大いに役立つ。 他の自然エネルギーにおいてもその内容や程度に違いはあるが、 基本的に地域産業と親和的であり、 ポジティブな効果を与える。

 こうした自然エネルギーがもたらす地域産業・地域経済の振興効果を確認するならば、 固定価格買取制度に基づく自然エネルギーへの投資・開発は、 地域からグリーン・ニューディールを起こす起爆剤とみることができる。

 米国のオバマ大統領はその政権公約の中で、 クリーンエネルギーなどへの戦略的投資による五○○万人雇用創出などと表明し、 それをグリーン・ニューディールと命名して打ち出した。 これを契機に、 グリーン・ニューディールに対する関心が世界的に高まったが、 その後はそれほど進展していない。

 そのなかで自然エネルギーに基づいて地域から作り出されるグリーン・ニューディールは一つの発展方向であろう。 日本においても緑の分権改革と接合し、 自然エネルギーを活用した新しい地域エネルギー経営のモデルが出てくることを期待したい。

植田和弘(うえた・かずひろ =
京都大学大学院経済学研究科教授)

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