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2011年10月18日 (火)

著者より:『現代経営入門』 「書斎の窓」に掲載

183940高橋宏幸・丹沢安治・花枝英樹・三浦俊彦/著
『現代経営入門』

2011年06月刊
→書籍情報はこちら

pen 著者の高橋宏幸先生が,本書の刊行にあたって『書斎の窓』(2011年10月号)にお寄せくださいましたエッセイを,以下に転載いたします。

◆経営入門書――現代の企業経営に思い巡らして
=高橋宏幸(たかはし・ひろゆき,中央大学経済学部・大学院戦略経営研究科教授)

1 好評を博する翻訳書

近刊書を手に取って見るため都心に出ると大型書店に立ち寄ることにしている。そこで感じるのは,戦略系の書物が多くの読者から支持され,書店に所狭しと並べられていることである。ちょっと前になるが,ハーバード大学教授M. E. ポーターの『競争の戦略』(ダイヤモンド社,1982年),『競争優位の戦略』(ダイヤモンド社,1985年)の2部作が翻訳出版された。この翻訳書は値段もさることながら,サラリーマンが読み通すにはあまりにも大部なことと,価値連鎖といったこれまでと全く違った概念が用いられ理解を困難にしていた。にもかかわらず,これがサラリーマンを中心に大ヒットし,書店にうずたかく積み上げられることになったのである。このポーター理論を補完すべくリソース・ベースト・ビューの立場から出版されたのが,J. B. バーニーの『企業戦略論』(ダイヤモンド社,2003年)の上・中・下の3巻である。アメリカのビジネススクールで好評を博しているテキストだけあって理論の新鮮さと内容の充実さに圧倒される。ポーターにしても,バーニーにしてもビジネススクールの教授であり,経営学の基礎的知識の無い日本のサラリーマンが手にしても,そう簡単には歯が立たない。ポーター理論の簡便な解説本が,最近注目され,店頭に並んでいるのもこうした事情によるものかもしれない。

また最近では,250万部のベストセラーと映画化で話題を呼んだ岩崎夏海の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社 2009年)は,高校生の若者にまでもドラッカーという経営学者の存在を知らしめ,表層的にすぎないにせよマネジメントということについて思いをはせる機会を与え,ちょっとしたP. F. ドラッカー・ブームを引き起こしている。その結果,ドラッカーの往年の名著に交じって,その解説書や啓蒙書の類が書棚に並べたてられ,その光景はまさに圧巻と言うほかない。経営の神様に祭り上げられたドラッカーの理論を頭ごなしに否定する気はさらさらない。しかし,彼の社会や政治分野に及ぶ広範な関心とその社会評論家,文明評論家的な活動は経営学者の範疇をはるかに超えてしまっていて,そこから企業経営についてのバランスのとれた全体像を導き出すことは難しい。狭い意味での経営学書としてではなく,広く社会に対する啓蒙書としてはこれに勝るものはない。

2 大学の経営学教育とテキスト

ここで大学での経営学教育,特にその入門教育を考えてみてみよう。全国には経営学を講義する大学や短大の数がかなりある。その学生たちの圧倒的多数は,経営の実務経験も無く,産業についての基礎知識はもとより,知っている会社名も極めて限られた範囲でしかない。経営についての予備知識を全く持ち合わせていない日本の学生を対象に経営学入門を講義する場合,上述のアメリカのビジネススクール向けのテキストではあまりに荷が重い。それでは今までどうであったのだろうか。

数ある入門書や概論書を手にして気がつくのは,テイラーの科学的管理法にはじまってフォードのベルトコンベア・システム,メイヨー,レスリスバーカーの人間関係論そしてバーナード,サイモンの近代組織論という学説史的な展開が多くを占めてきたということである。学説史的研究の意義は否定し得ないとしても,これによって初学者に経営学という体系を指し示しつつ,現代の問題の所在を明らかにすることには無理がある。また生産現場での組織的怠業の解決からはじまったアメリカ経営学も次第に問題領域を拡大し,必ずしも企業に限定されない管理問題に拡散していった。その1つがリーダーシップ論であり,心理学や社会学といった学際領域で特徴づけられる問題である。

アメリカのプラグマティズムからすれば,管理論をもって,ドイツのグーテンべルク流のアートか科学かの議論は無用で,実践での問題解決に役に立てばよいのである。株式会社形態の企業を中心に据え,そこでの経営上の問題を展開するなかで,管理論上の理論的成果を取り込むという方向で,経営学の体系を構築する方法もある。その場合,株式会社と言っても,それをめぐる状況も一変している。その結果,かつて重要であった問題が現在ではそうではなくなったり,逆にかつては無かった問題が現在では重要な問題となっていたりする。特に,近い将来,企業社会に出ていく学生に現代の経営に真正面から対峙させ,生起している問題の本質を明確に認識できる能力を身に付けさせるためにも,現代の経営をきちんと教授する必要がある。

初学者を念頭に置いた場合,あくまでも基本的な事柄を,できるだけ通説に近づけて解説していくことが求められる。その意味では,新たな知見を導き出すことを最優先課題とした専門的な研究書のスタンスとは異なる。以前にはなかったが,現代において新たに登場した経営学上の課題に光を当て,それがどういう意味を持つのかに,できるだけ頁を割くことで,現代がクローズアップされるはずである。例えば,戦後の財閥系企業集団の三井と住友の併合,株式持ち合いの解消,単体経営から連結経営へ(グループ経営化),純粋持ち株会社の部分的解禁(ホールディングス化),株式会社の最低資本金制度の実質的解消,有限会社制度の廃止,グローバル経営化の進展など企業制度に係る新たな変革である。また現時点での欧米と比較することで,今後の改革の方向性が示唆される。 

3 アメリカのビジネススクールと教材

ひょんなことから私は現在,従来型の経済学部,大学院である中央大学経済学部,大学院経済学研究科と経営系専門職大学院,すなわちビジネススクールである大学院戦略経営研究科の両方に併任教授として係わっている。専門職大学院の学生は,全員有職者で,本社企画部等の会社の中枢に携わる多忙なビジネス・パースンである。彼らは日常業務で様々な問題に逢着していて,問題解決能力を高めたいという強い気持ちを持って入学してくる。そんな彼らの要請に応えるのがビジネススクールである。実務家教員による実践的講義,ケーススタディ,グループディスカッションといった専門職大学院ならではの講義科目と教授法は,ビジネススクールを特徴づけている。

一口にビジネススクールといってもいろいろで,アメリカのビジネススクールでもシカゴ大学のビジネススクールのようにかなり理論的色彩の強い講義形式のところ,ハーバード大学ビジネススクールのようにケース・メソッド中心のところもあれば,ペンシルバニア大学のウォートン・スクールのように両者のバランスをとった折衷的なやり方のところもある。我々のビジネススクールでは理論と実践のバランスを配慮し,ケースに埋没することなく理論とのバランスを考えて適切な範囲で取り入れている。たまたまセプテンバー・イレブンの翌年の2002年から2カ年間アメリカのコロンビア大学にビジティング・スカラーとして滞在し,コロンビア大学のMBAとEMBAの両方の講義に参加した経験では,各セメスターで用意されるテキストは様々なジャーナルからコピーされたペーパーが500頁にもなる分厚い本に纏められ,講義参加者には事前に読んでおくことが求められ,あわせてたくさんの課題が出されていた。ともかく驚くほどぶ厚いテキストを,日本の従来型の学部で,特に初学者向けの経営学テキストとして使うことはあまりに場違いの感がある。

4 初学者向けテキスト『現代経営入門』の刊行

経営学のテキストを書くようになって,いつも思い出すのは恩師中村常次郎先生の言葉だ。「テキストは最後に書くもんだよ。若い時に書くものではないよ」「そうですね」と相槌を打った私であったけれど,先生が亡くなってほどなくテキスト作りに励んでいた。中村先生はもともと寡作な方で,生存中の単著は終戦直後,地方都市の福島の出版社から刊行された『経営経済学序説』(福島文化堂,1946年)1冊にとどまる。入門的なテキストに至っては,1970年有斐閣双書の1つとして刊行された中村常次郎編『経営学』が最初で,先生はその時すでに63歳になっていたのである。奇遇にも,私も今年63歳にして『現代経営入門』を4人の共著という形で,今回,有斐閣ブックスとして刊行したのである。

いつものことながら,テキスト選びには頭を痛める。現代起きている経営学上の重要なテーマから目をそらせ,過去に執着する姿勢は排斥されなければならない。こうして考えてみると,なかなか適切なテキストが見当たらないというのが本音である。そんなことから,2002年に『現代経営・入門』を有斐閣ブックスとして出版した。それから約10年過ぎた。さすがに,現代という言葉を冠するには時代遅れのところも出てきた。そんなこともあって,今回執筆者を入れ替えての全面的な書き換えをし,新たな経営学テキストとして出版したのが丹沢,花枝,三浦それと高橋の4人の共著『現代経営入門』である。

高橋宏幸(たかはし・ひろゆき)
=中央大学経済学部・大学院戦略経営研究科教授

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