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2010年12月22日 (水)

著者より:『マーケティング』 「書斎の窓」に連載(第3回)

05373池尾恭一・青木幸弘・南知惠子・井上哲浩/著
『マーケティング』New Liberal Arts Selection

2010年5月刊行
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pen  『書斎の窓』(12月号)に掲載の,南 知惠子先生による「リレー連載・マーケティングの「いま」をみつめて」 (第3回)「マーケティングの理論は進化しているか?」をお読みいただけます。

                                                                                                         

マーケティングの理論は進化しているか?◆

                                  南  知 惠 子

企業から「関係性」を求められる消費者

巷にあふれるポイントカードが嫌いだという友人がいる。買い物をして財布を出すときにポイントカードを忘れてきたことにしばしば気づくからだという。「だって、店ごとにカードがあって、いちいち持ち歩く気がしないし、買い物ごとに店の人にカードを持っているかと聞かれると鬱陶しい。」

関係性志向のマーケティングを研究し、企業にCRM(顧客関係管理システム)やロイヤルティ・プログラムの有効性を説いている身として苦笑するしかない。企業からの顧客へのアプローチと消費者の受けとめ方についてはマーケティング研究上、様々に論議されてきた。

同じ相手と継続的に取引をし続ける志向をリレーションシップ(関係性)志向と呼ぶが、この分野の研究は、主としてサービス分野、産業財の分野において発展してきた。近年この分野が注目を浴びているのは、ICT(情報通信技術)の進展により、とくに企業がターゲット顧客を識別し、アプローチするという環境が整備されてきたことが大きい。

産業財取引においては、部品サプライヤーと組み立てメーカーとの関係にみられるように、活動自体が相互依存的であり、特定顧客との継続的な取引自体が前提とされる業界がある。こうした継続的な取引や、取引の当事者どうしの相互作用をもとに理論化してきたリレーションシップ・マーケティングと呼ばれる考え方の枠組みは独自のマーケティング理論をめざしてきた。一方で、サービス分野においては、サービスの特徴として、サービスを提供する行為と受け取る側との行為とが不可分である。例えば飲食店で食事をするのに、調理、配膳する側と注文、食事をする側の相互作用がなくてはならない。この不可分性や相互作用ゆえに、顧客との関係性に注目する立場がある。これらの関係性への主張やマーケティング理論への導入という動きは四半世紀もの間、論議されてきたのである。

さらに、リレーションシップという概念が、消費財市場にまで拡張することができるのかという論議が一九九〇年代に隆盛してきた。消費者が特定のブランドに愛着を持つ、特定の企業に対して好もしく思う、ゆえに特定企業の製品ブランドを購入し続けるということは、企業にとっていわば理想であり、マーケティング活動がめざしている目標がそこにあるといって過言ではない。とはいえ、製品ブランドを購買ごとに評価し、その価値ゆえに購買されるということではなく、企業と消費者との間に継続的に購買するしくみを作るというのは実は容易なことではない。理由は、市場には消費者にとって無数の製品・ブランドの選択肢があり、特定のブランドしか買い続けないというのは不自然かつ困難なことであるためである。また特定の製品やブランドを購入し続けていても、他に店舗の選択肢が増えたり、消費者自身の環境がかわったりと、様々な条件下で、継続的に購買することをやめてしまうことがある。消費者が継続的に購買し続けているからといって、それは必ずしもロイヤルティ(忠誠心)ではなく、他に選択肢のない継続購買すなわち「みせかけのロイヤルティ」であることもしばしば起こるのである。

ICTを基盤とする顧客との関係育成のプログラムであるCRMは、単にポイントカードを作って継続購買のインセンティブを作っているわけではない。CRMは、リレーションシップ・マーケティングを体現するものでありながらも従来のマーケティングを進化させているのは、ICTを利用することにより、顧客のプロフィール・データと購買履歴などの行動データを収集し、分析できるという点にある。つまり消費者の「顔」が見える状態でマーケティング活動が策定できるのである。購買履歴を収集するには、まずポイントカードなどのインセンティブを与え、プロフィール・データを取得する必要がある。

冒頭の友人のような場合に企業はどのようにアプローチすべきなのか。喜んでポイントを貯めたくなるようなインセンティブを作るか、あるいはポイントカードによらない顧客データの収集のしくみを作る必要がある。

消費者間コミュニケーションがマーケティングの武器となる

SNSや、ブログ、ツィッターは、日常のたわいのないことをつぶやいたり、それを共有したい人だけで盛り上がっているものだと思うむきもあるかもしれない。ただWebサイトが企業にとってマーケティング戦略上、無視できなくなっているのは、Webサイト上にあまりにも消費者のコミュニケーションが縷々あふれていることにある。

何かモノを買おうとするとき、旅先の宿泊場所を決めるとき、どの店で食事するか決めるとき、買ったモノに不具合があったとき、使い方がわからないとき、人に薦めたくなったとき、人を探したいとき、実に多くの機会に、消費者はサイトを探し、サイトを読む。サイトに書き込む。あるいは勝手にサイトに行きあたる。何か製品について問題があった場合に、調べるのは取り扱い説明書ではなく、まずサイトを検索してみるという消費者も多い。消費者についてインサイト(洞察)を得たい企業側からすればWebサイトは宝の山である。

Webサイトは企業にとり情報収集の場であるのと同様、プロモーションの場でもある。宣伝してほしい新製品やサービスはブロガーに日常の風景に織り交ぜて書いてもらうことになる。誰かが誰かに勧めるという、消費者間のネットワークや、たまたま行きあたったり、迷い込んだサイトの中で、商品やサービスへの評価、コメントに遭遇し、そこから消費者は影響を受け、また人に影響を与えることになる。

従来のマーケティングが行ってきた市場調査や、プロモーションはもはや限定的なものになっていくであろう。消費者の声や行動がデータとして収集でき、分析できる状況になり、また消費者間において影響を与えあう構図が形成されている状況の中で、マーケティング活動のありかたは大きく変化してきているのである。

チャネル管理を超えた「管理」:サプライチェーン・マネジメント

ICTの発展は、企業と消費者との間の情報収集や情報提供の点でのみ貢献しているのではない。製品をどう過不足なく、最終的には消費者の求める場所、時間に提供するかはマーケティングの重要な課題である。従来のマーケティング活動においては、メーカーが、自社製品を最終消費者に到達させるために、どのようなチャネル(流通経路)を選択するかが重要な問題であった。直接販売やダイレクト・マーケティングのような直接流通を選択するのか、あるいは代理店や他の流通業者を通じた間接流通経路を選択するのかは重要な選択であり、またそれをどう管理するのかについて関心を集めてきた。例えば、間接流通には、メーカーの製品が市場取引される場合もあれば、代理店との契約に基づく販売もあり、いわゆる系列取引といわれる、商習慣により特定の流通経路を通じて、自社製品を優先的に取り扱わせる制度による販売もある。こうしたチャネル選択と、その管理問題については、いかにして他社との協調関係を築くか、コンフリクトを避けるか、相手の持つパワーに対して、取引相手への依存度をコントロールするかといった問題が重要視されてきた。

しかしながら、大規模な小売チェーン企業が出現し、パワーを持ち始めたことから、近年は、メーカーによるチャネル管理のみならず、メーカーと小売業とを含めた、サプライヤーから最終消費者に至るまでの、サプライチェーン全体の管理問題が注目を集めている。これは大手小売企業が自社への供給体制に対してコントロールしようとする誘因をもったことに始まるが、ICTの進展により、受発注と、決済、モノの流れを分離して把握できるようになったことが大きい。メーカーと小売業が合意し、協力しあえば、小売企業がメーカーに発注した製品について、倉庫に在庫してある製品がどのタイミングで出荷されたかお互いに情報共有でき、店頭での欠品状態の期間がなく、店頭への在庫補充を行うこともできるようになってきているのである。

サプライチェーン・マネジメントとは、サプライヤーから最終消費者に至るまでの、モノの流れの全体最適化をめざすものである。良く知られている自動車産業のジャスト・イン・タイム・システムのように、モノを作って売る取引の連鎖の中で、在庫がだぶつかないように、それぞれの企業が必要最小限の材料を在庫し、組み立てていくという、サプライチェーンの管理業態がある。近年では、アパレル産業にみられるように、販売動向の変動に応じて、供給体制を変動させるタイプのサプライチェーンの管理形態も行われるようになってきている。

サプライチェーン・マネジメントの活動の中では、イニシアチブをとる企業が他の企業と協働して付加価値連鎖を変化させていっている。これは伝統的なマーケティングの理論の中ではかならずしも想定していた活動ではない。メーカーはいかにしてチャネルを作り、管理するかというタイプの問題より、さらに高次の問題にメーカーは直面することになってくる。

企業と消費者とのつながり、消費者間のつながり、企業と企業とのつながり、すべての枠組みが現実的に変化してきている現在、現実を従来のマーケティング理論の枠組みで分析すべきなのか、あるいはマーケティングの理論自体を進化させていく必要があるのか、マーケティングに携わる実務家のみならず、研究者も変化をせまられている。

(南知惠子:みなみ・ちえこ=神戸大学大学院経営学研究科教授)

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