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2010年12月 1日 (水)

『入門・日本経済』第4章(日本経済の歩み3) 練習問題解答

1 橋本内閣の構造改革と小泉内閣の構造改革の共通点と相違点をまとめよ。

(解答例) 共通点はどちらも日本的経済システムからの脱却,アメリカ型資本主義への転換を目指す。具体的には規制緩和と市場メカニズムの徹底,小さな政府。相違点は橋本構造改革は各論的な「隗(かい)より始めよ」の各省庁主導のボトムアップ,小泉改革は総論的な経済財政諮問会議主導のトップダウン。


2 日本経済の再生に10年以上の年数を要したのはなぜであろうか。その経緯を簡潔にまとめよ。

(解答例) バブル経済の崩壊直後においては,資産価格の下落が一時的なものであり,いずれバブル景気時代に戻るとの楽観的な見通しがあった。このことから,日本的な経済システムの抜本的な構造改革の必要性が国民全体に理解され受け入れられるまでに相応の時間がかかり,その間,日本経済のデフレ基調が悪化の一途を辿った。21世紀に入って不良債権の抜本的な処理が成されて,ようやく吹っ切れた形で悲観主義からの脱却がなされ,株価や地価も上昇基調に転じ,それが設備投資や民間消費にも好影響を及ぼすことになった。この間,日本の競争力に地力がありエネルギーを蓄えていたのと,外資の流入がそれを引き出すのに貢献した面もある。


3 日本経済の再生の代価(影の部分)を整理し,将来の日本経済に思いをめぐらしなさい。

(解答例) 政府が進める構造改革では,日本経済の再生は,日本独自の経済システムからアメリカ型資本主義への転換であり,それがグローバル化時代に残された唯一の選択肢のように説明された。しかし,日本国民の多数が一貫してこれを支持するかは疑問。実際,各方面での格差拡大は優勝劣敗の競争社会を反映したものであり,日本再生の代価(影の部分)の最たるものである。日本的経済システムはアメリカ型の資本主義と比べると,激動期など短期的な効率性が優先される時期には見劣りする。しかし,経済の安定期には,下請けや顧客関係における長期的取引関係などは,かえって経済効率性を高めることは十分考えられる。終身雇用制や年功賃金,ワークシェアリングなども同様であって,これらは将来の日本国民にとって,総選挙時など繰り返し直面させられる選択肢になるであろう。


4 リーマン・ショックが日本経済に及ぼす影響に対する見立ては,ショック直後からどのように変化していったかまとめよ。

(解答例) バブル経済崩壊後の長引いた不良債権問題にひと通りピリオドを打った日本経済にとって,アメリカのサブプライム・ローン問題は対岸の火事であり,影響は軽微だろうとの見通しが当初の見立て。リーマン・ショック発生時の麻生太郎首相の「日本経済にもハチが刺した程度の影響はある」との発言が象徴的。しかし,アメリカやEUからの「100年に1度」規模の危機との評価が伝わり,実際に輸出急減などの実体経済への影響が出ると,一転してその規模を過大評価し,過大な生産調整に走る。やがて,世界的な政策協調や多くの国の大規模な財政出動で最悪の事態の回避に成功すると,逆の生産調整により景気のV字型回復が起こる。


5 履歴現象はなぜ起こるのか? 具体例にそって説明せよ。

(解答例) 需要拡大予測があり生産設備を増強してしまったとして,その後需要が予測通りに伸びないと,増強した生産設備が残る。これを利用しないままにすると設備増強費がそっくり損失になるが,仮に価格を下げて需要を喚起すると,増強した生産設備の有効利用の可能性が出てくる。このような固定費用の存在(埋没費用という)が1つの説明。埋没費用は文字通りの費用と,政策など経済環境の変化による期待(予測)形成のシフトなど費用換算されるものでも同様。リーマン・ショックなどの大きな外生的ショックによって取り返しできない不可逆的な判断をしてしまうと,ショックが消えても元には戻らない履歴現象が起こる。このほかにも,同じショックに2つ以上のもの(たとえば,賃金と物価,物価と生産量)が異なるスピードで調整すると,どの均衡に向かうかは初期状態に依存する。

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