付加データ:『経験から学ぶ人的資源管理』 「演習問題の出題意図と解答のポイント」第15章
上林憲雄・厨子直之・森田雅也/著
『経験から学ぶ人的資源管理』
2010年10月刊
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第15章「多様化する働く意味づけを組織はどう管理するのか」
演習問題(357ページ)の出題意図と解答のポイント
〔1〕
第3節で学習したように,ワーク・ライフ・バランス論議の高まりに伴い,各国とも何らかの形で政府・行政がその推進へ向けて働きかけを行っています。
(上より続く) その中でも,概ね政府や地方自治体などの行政が中心となってワーク・ライフ・バランスの社会的政策を導入し,企業に浸透させていくように主導するヨーロッパ方式と,相対的に行政のタッチは少なく,個別企業が主体的に導入しようとするアメリカ方式の2分類があることに留意しましょう。北欧(スウェーデン,ノルウェー),オランダ,イギリス,アメリカ,日本などに分け,時系列的に年代を区切って表を作成するなどして,その大まかな動きをまとめてみてください。
〔2〕
各社のホームページを閲覧したり会社案内などをチェックしたりしてみると,日本企業においてもワーク・ライフ・バランスの推進へ向けて,多かれ少なかれ,何らかの活動をしている企業が多いことがうかがえると思います。ただ,各社によってその対応はまちまちで,一口に「ワーク・ライフ・バランス」といってもその概念規定からして,女性の採用が中心のものであったり,管理職の女性比率であったり,あるいは雇用形態の多様化(「多様な働き方」推進)や残業の削減に努力している企業であったり,実にさまざまであることがわかるはずです。347ページの表15-2に掲載されている制度やメニューを中心にまとめてみると,より具体的にわかりやすいかもしれません。例えば,休業・休暇に関わる制度(育児休業,産前産後休業,介護休業など),働き方の見直しのための制度(短時間勤務制度,フレックスタイム制など),代替要員の確保のための制度(ドミノ人事制度やシフト人事制度など),各種の手当て・補助などの経済的支援,働く人々の意識改革のための制度などが,それぞれ導入されているかどうか調べてみてください。導入されている制度やメニューが,実際に運用されているかどうか(制度としては存在しているものの,実際には運用した従業員は皆無だった等の事例はないか)についても,難しいと思いますが,もしわかれば調べられるとおもしろいです。
〔3〕
この問いにあげられている「職種」,「業種」,「企業規模」をまず具体的に特定し,ワーク・ライフ・バランスに関し,現状でどのような問題が議論されているか考えてみましょう。例えば,「企業規模」に関してみてみると,中小企業においては,一般的にはワーク・ライフ・バランスの推進が大企業に比して相対的に遅れ気味であるといわれています。資金面で,既存の状況を見直したり新たな制度を導入したりする余裕がない中小企業が多いためであるといわれています。しかし,中にはワーク・ライフ・バランス改善へ向けた取り組みを積極的に行っている中小企業も,少なからず見受けられます(例えば,352ページの「コーヒーブレイク」で取り上げられているサイボウズ社の事例を参照してください)。官僚制的で1つ新しい試みをしようとすれば時間がかかりがちな大企業(☞64ページ)に比べ,中小企業では,経営者の考え方ひとつで即座に対応のとれるケースも多いからです。こうして考えると,一概に中小企業ではワーク・ライフ・バランスの推進がしにくい,という見方は一面的に過ぎないことがわかるはずです。以上では「企業規模」に関してみてみましたが,このように「職種」や「業種」に関しても,ワーク・ライフ・バランスの推進に作用すると思われる要因と,阻害に作用すると思われる要因を列挙し,それらの諸要因間の関係性に鑑みながら,論理的に推論してみることが重要です。
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