編集部員より:はじめての執筆者会合
書籍編集第2部に配属されて間もなく,私は,ある合宿に参加する機会を得ました。その合宿はただの合宿ではなく,来年出版予定の政治学分野の教科書のための合宿で,朝から晩までずっと研究会が続くというものでした。
折からの大雨はあがっていましたが,駅を降りると少々肌寒く,霧も立ち込めていました。タクシーに乗り込み,目的地を告げると,どんどん山の中に連れていかれ,森の中のとある研修施設で下ろされました。こんな山の中で会議があるなんてと思いつつ,その建物の中に入っていきました。さらに地下に下り,恐る恐る会議室のドアを開くと,なんともう会議が始まっており,入室しかけたその瞬間,先生方の議論は止まり,みなさんの視線を一身に集めるという最悪の登場をしてしまいました。開けた瞬間に引き返そうかと思うくらい議論の真っ最中でした。とはいえ,ここで背中を向けるわけにもいかないので,足早に空いている席に向かいました。そして,遅刻かどうかを考える間もなく,先生方にご挨拶をしました。会議室内を見渡せば,これまで直接的にお世話になった先生あるいは著作や論文等を通じて間接的に勉強させていただいた先生ばかりで,ただただ恐縮するばかりでした(会議の開始時間が予定時間より早くなっていたため,このような登場となってしまいました)。
そんな最初の窮地を脱してからは,落ち着いて先生方の議論を聞くことができました。
議論を聞かせていただいた中で,特に印象に残っていることが2つあります。1つは,自説を後景にして説明された先生に対し,ある先生が「最先端の研究成果も盛り込み,一般の読者に広く知ってもらうこともこのような教科書の役目である。」と言われたことです。教科書と言えば,通説を並べたものという印象の強かった私にとっては,教科書を作ることの新たな側面を教えていただいたように感じました。
もう1つは,あまりに専門的で詳細な議論が交わされていたときに,ある先生が「その問題は読者にとって重要なのか,記述も難しくないか。」と言われたことです。それぞれの分野で第1人者と言われる先生方ばかりなので,その場で交わされる議論は,時に高度に専門的なテーマへと進んでいきます。そのような先生方が交わされる議論は聞いていて興味深く,私も一学生に戻った気分で聞いていました。そんな時,この言葉を聞き,読者の存在をすっかり忘れている自分に気づかされました。
このような真剣な議論の合間の休憩中は,先生方との名刺交換です。入社前ならお話しすることもなかったような先生方に近づいていっては,お話しさせていただきました。しかし,名刺という心強い味方を手にしていても,先生方に近づいていくことは,やはり気後れしてしまいます。また,これまで学生として直接接してきた何人かの先生方と名刺交換を行うことは,はじめてお会いする先生方とは別の少し気恥ずかしい気持ちになりました。というのも,今更改めて自己紹介をするということも不思議な感じがしたからです。その一方で,編集者としては初対面なので,これまでとは少し距離感が異なるように感じるところもあり,新鮮でした。
以上,はじめての合宿は,あっという間に過ぎていきました。今回は会議に出させていただいただけでしたが,まだまだ学ぶべきことがたくさんあるということを改めて気づかせていただいた2日間でした。この気持ちを忘れることなく,日々精進していきたいと思います。
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