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2006年12月26日 (火)

編集部員より:学会で考えた福祉のこと,これからのこと

N.H.

 研修が終わり,編集部に配属されて1ヶ月弱。仕事もまだほとんどわからない状態で,はじめて学会というものを傍聴させていただきました。大学時代あまりまじめに勉強する学生ではなかった私にとって,さまざまな研究者の方々が集まる究極の「勉強」の場である学会は,まったくもって未知の世界でしたが,振り返ってみるととても刺激的で不思議な空間だった,というのが率直な感想です。

 私は大学で社会福祉学を学んできたのですが,今回傍聴させていただいたのは「福祉社会学会」,社会学と社会福祉学のそれぞれの知見が交錯するテーマをあつかう学会でした。

もともと社会福祉学というのは,心理学や社会学などの理論や知識をとりいれながら発展してきたものだとは思いますが,私自身が大学で勉強してきた過程を振り返ってみると,なかなか他分野の知識をとりいれるというのは難しく,どうしてもひとつの考え方に縛られてしまうことが多かったように思います。そのため,今回「福祉社会学」という視点で行われるさまざまな研究発表を拝聴したことで,ひとつの考え方にとらわれることなく,福祉にまつわる問題を社会学の立場から考えてみるなど,少しちがった目線でながめてみることの重要さに気づけたのは大きなことでした。

 今回の学会では,報告予稿集をながめながら興味のあるテーマを探し,1日目のパネルディスカッション,2日目の自由報告,シンポジウムなどを聞くことができました。ホームレスやボランティア,ソーシャル・サポートなどテーマはさまざまで,卒論を終えて以来とにかく勉強というものから遠ざかりつつあった私は,こんなに頭をつかったのは数年ぶりではないかというくらい,必死についていかなければなりませんでした。私の頭では理解しきれないこともたくさんあったのですが,疲れとともに「おもいっきり勉強した!」という不思議な高揚感を得たりもしました。

 いくつかの発表を聞いていくと,なんとなく「今はやっている,注目されていることば」というのがわかってきたりします。学問の世界にも流行というのがあって,「昔はすごく注目されていたけど,今はねぇ」ということや,「これは絶対におさえておかなきゃ」ということが,時代とともに少しずつ入れ替わっていくようなのです。これに関しては勉強から少し離れて,ちょっとしたミーハー心で楽しんでしまいました。流行のキーワードをおさえることで,今社会でどんなことが問題とされているのか,どんなことを手がかりにそれを考えていけばいいのか,という輪郭が少しずつ見えてくる。学問の世界を少し身近に感じた瞬間でした。

 学会での私の課題には,勉強のほかにもう1つ重要なことがありました。それは,これからお世話になるであろう先生方にごあいさつすることです。初対面という状況にまったくもって弱い私なので,行く前は非常に心配だったのですが,緊張でほとんどわけがわからなくなりながらもどうにかごあいさつすることができました。勉強したあとの不思議な高揚感を引きずっていたのがよかったのかもしれません。

 自分がいかに大学時代に勉強をおろそかにしてきたのかを思い知ったり,これから学ばなければならないことの多さに驚いてしまったりもしましたが,それと同時にもっともっと勉強したいな,と思ったのもほんとうです。わからないことやあまり考えないようにしてきたことの山を前にして,「私もやればできる…はず」と決意をあらためつつ,はじめての学会は終わっていったのでした。

 少し前までなら,社会福祉というのは,何か特別な状況におかれた人のためのもの,と思う人が多かったかもしれません。私自身も,大学生になるまでは,福祉ということをそれほど真剣に考えたことはなかったように思います。しかし,少子高齢化や格差社会ということがこれほどまでに叫ばれるようになった今,問題はけっして他人事ではなく,自分たちのすぐそばにあるのだと考える人も増えてきているような気がします。社会福祉に関することがかつてないほどに注目を集めているなかで,大学で(いちおう)専門に学んできた私は,今後どんなふうにそれとかかわっていけるのだろうか。今回の学会は,あらためてそんなことを考える機会になったと思います。

 大学の4年間で私が唯一わかったのは,社会福祉とは,答えの出ないことを考えつづけることだ,ということだったように思います。正しいとか間違っているとかいう線を引くことがほんとうに難しい。というよりも,ひとりひとりの人間を対象とする以上,それは不可能に近い。もしかしたら,福祉ということに限らず,どんな場面においてもあてはまることなのかもしれません。私はそれを抱えながらきっとこれからも生きていくのだし,仕事をしていくのだと思います。自分のかかわっていくものが,少しでも同じようなことを考えつづける人の手がかりになればと願いながら。

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