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2005年2月26日 (土)

編集部員より:編集者5年生

T.S.

 会社に入ってもうすぐ5年経つ。その間に,20冊くらい本を出している。若手と言い張ることもできるが,本当の若手の方々はもうすぐそれを許してくれなくなるだろう。5年間で成長したことといえば,「この図はだいたい何センチくらいで作れそうだ」とか,「この単語にはルビを振らないと学生には読めないだろう」とかの判断ができるようになった。ほかには,世の中の多くの本に誤植が隠されている(かもしれない)ことを知った。「この本は売れそうだ」とか「この本はいつ頃に出せそうだ」という感覚は,残念ながらまだ身に付いていない。編集者としては本当はそれでは困るのだろうが。

 高校や大学の友人と久しぶりに会うと,最近の仕事の話になることがある。編集の仕事について,企画を立て,著者に原稿を依頼し,校正し……といった仕事の流れを伝えると,だいたい理解してもらえる。本がどのようなものかは誰でも知っているし,どのように作られるのかも想像しやすいからだろう。ところが,実際にみんな本を読んでいるかというと,だいたいの人が実用書,ビジネス書,小説くらいのもので,新書などほとんどの人が買わないようだ。「学問」に関する本を出している立場からすれば,「もっと読んでよ」というべきなのだろうが,「読む必要のない人は別に読まなくてもいい」という気もする。

 いま大学生向けの教科書や専門書を作るお手伝いをさせてもらっているが,出版社に入ろうと思うようになったのは大学の最後の年だ。別に本が大好きだったわけでもない。ただ,大学での講義や勉強はとても楽しかった。私の専攻選択に大きく影響した講義や先生にも出会った。陳腐な言い方だが,「学問の面白さ」を感じた。大学のときは人間のこと,とくに人間の心に関心があった。中学や高校ではあんまり楽しく学んでいなかったかもしれない。でも思い返せば,小学生のときに理科の図鑑を読んでいるのがとても楽しかった。地球のこと,生物のこと,環境のこと。学ぶことはきらいではなかったのかもしれない。会社に入ってからも,いろいろと新しいことに出会っている。働くということ,障害のこと,戦争や外交のこと,韓国や北朝鮮のこと,日本の財政のこと,日本酒のこと(?)。いままでどれも考えたこともなかった。

 ところで,私は旅行があまり好きでない。外国に出かけ,日本にはないものを見て,感じて,人に触れて,という営みが,あまり楽しくないのだ。旅行好きからすれば,「何ともったいない」というところだろう。さらに私はいまほとんど小説を読まない。「読んだ方がよい」と勧めてくれる諸氏は多くいるが,試しに読んでみても面白くないから途中で挫折する。「小説の面白さがわからないなんて(かわいそう)」という声が聞こえてきそうだ。私は「学問」に触れているのはとても楽しい。でももしかしたら,そんな人はとっても少ないのかもしれない。「学問」に関心のない人に,「よくない」「もったいない」といったっていいのかもしれないが,その人は私が感じることのできない何か大事なものを大切にして生きているのかもしれない。だから「読む必要のない人は別に読まなくてもいい」と思う。ただ,私は「学問」に触れるのが楽しいので「面白いこといっているな」という人に本を書いてほしいと思っているし,自分が大学での学びが楽しかったので学生が楽しく学べる大学のテキストを作ろうと思っている。

 でもまあ,まだ編集者5年生だから。今後どうなるかはわからない。ずっと楽しいと思っているかもしれないし,飽きてしまうかもしれない。編集者は40年生くらいまでやらないと卒業できないそうだ。長い道のりの一合目を過ぎたあたり。

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