本の詳細:『分権と自治のデザイン』(新しい自治体の設計1) はしがき
森田朗・大西隆・植田和弘・神野直彦・苅谷剛彦・大沢真理/編
『分権と自治のデザイン』(新しい自治体の設計1)
2003年8月刊
はしがきを掲載いたしました。
〈はしがき〉
現代は変化の時代である。これまで百年余にわたって続いてきた「右肩上がり」の成長の時代が終わり,これからは本格的な成熟の時代に入る。情報化をはじめとする技術革新,経済のボーダレス化による国際化,そしてそれらが引き起こした産業構造の変化は,わが国の社会のあり方を変え,人々に意識の変化をもたらした。そして,現在,多くの人々は,「量」の充実から「質」の充実へ,「ハード」から「ソフト」へと政策の転換を求めるようになってきている。
何よりも,まもなく始まる本格的な人口減少の時代は,わが国の社会のさまざまな制度や仕組みの前提を変えることになる。制度が,一定の社会環境を前提にして形成され,その前提が成り立つかぎりにおいて有効に機能するとするならば,その前提の変化は,制度そのものの役割を失わせるであろう。その状態から脱出するためには,大胆な「構造改革」は避けがたい。
「右肩上がり」の状態を前提として形成され,高度成長の時代にわが国の発展に大きな役割を果たしてきたこれまでの制度の多くは,いまや「制度疲労」の状態にある。たとえば,都市から農村への富の再配分を行うことによって,「国土の均衡ある発展」に大いに貢献してきた地方交付税制度は,都市部の税収の減少により,現在では,その機能を充分に果たせなくなってきている。
そのような状況下で,わが国の政治・行政の基幹的な制度の多くは,いま見直されようとしている。行政改革による省庁組織の再編,司法制度改革,公務員制度改革,大学制度の改革,そして早い段階から取り組まれ,大きな成果を上げてきたのが地方自治制度の改革,すなわち地方分権改革である。
こうした時代にあって,どのように新たな制度を構築していけばよいのか。地方分権に関しては,もはや従来の制度の小手先の改革では,新たな環境に適応することはできない。それでは,これまで進めてきた改革をさらに推進し,新たな環境の下で,自主自立の地域社会を形成していくためには,どのような制度のあり方,自治体のあり方が望ましいのか。
この問に答えることは容易ではないが,このようなときに新たな制度構想を打ち出すには,第1に,物事の原点に立ち戻って考えること,そして第2には,従来の枠組に囚われずに,柔軟に新たな発想を生み出すことが必要であろう。
これからの「自治」のあり方を模索する,「分権と自治のデザイン──ガバナンスの公共空間」と題するこの巻がめざすのは,このような観点から,「自治」の原点を見据えつつ,これからの時代の自治体のあり方を考えるうえで役立つと思われる視点を提示することである。
この巻では,今日,市町村合併や地方財政制度改革を含め,自治体の規模やその基本的なあり方が問い直されているなかで,まず「自治体」とはどのようなものかという根元的な課題を問うことから始め,自治体の役割,自治の単位,都市と農村の関係,そして,行政課題の広域化・高度化が進むなかにあってますます重要となる意思決定や参加の制度,また自治体を構成しその活動を支える人,物そして資金といった資源のあり方について,新たな視点の提示を試みている。
ここでの考察が,これからの自治のあり方について関心をもち,新たな自治体像を模索している方々に,多少なりとも新鮮な視点を提供することができれば幸いである。
2003年7月
編集委員を代表して 森田 朗
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