編集部員より:私たちの出版活動
小社は,法律書が中心と思われていますが,古くからから非法律系の出版を行ってきています。明治時代に『万国商業歴史』という翻訳本を刊行しています。私たちの先輩たちがそのときどきの時代状況の中で奮闘した結果ですが,もちろん,現在の当編集部のメンバーは,最年長のものでも1943年生まれですから,資料室に残された書籍から窺い知るしかありません。当編集部の資料室に並べられてある出版物のうち,古いものでは1948年刊行の東京商科大学(現・一橋大学)国際関係研究会著『国際貿易憲章の研究』などがあります。これらの古い本は,ほとんどが箱入りのハードカバー本ですが,壊れかけた箱や,黄変していますが旧字体の活版印刷が鮮明にわかる紙面から,その歴史が如実に感じられます。
いま仕事をしている私たちは,その伝統を受け継ぎながら,同じように時代状況を見据え,非法律系の出版に邁進しています。私たちはベストセラー・メーカーではありませんし,娯楽ものの出版物には無縁の,「業界」とはいえ,地味な仕事が中心ですが,その基本的な姿勢を一言で申し上げれば,経済学・経営学・社会学・心理学・社会福祉・政治学などの学問の現在の展開や研究動向を的確に捉え,それぞれの学問分野が蓄積した知見によって現在の社会・経済をどのように理解できるかを読者の皆様にお伝えするということです。具体的には,学者の方々の最高の研究業績を研究書として刊行すること,最先端の研究成果や基礎知識をわかりやすく噛み砕いて大学で学ぶ読者にふさわしいテキストとして提供すること,実業界で活躍される読者の日常に役立つ情報を学問分野の知見から得て実務書的要素をもった書籍として提供することです。
いずれも,志は高くという姿勢ですが,決して容易なことではありません。各学問分野の研究動向をつねに注目してゆくことと,大学での教育内容に関心を払い,その変化を的確に把握してゆくこと,そして,いま読者の皆様がどのような内容を出版物に求めておられるかということを,十分に理解して行かなくてはなりません。いかなる書籍とも,読者の手に採っていただかなくては,その書籍にちりばめられた著者のすばらしい知見も,有用な情報も,刊行に携わった編集者の熱い思いも,届かないのです。そのためには,読者の皆様の書籍に対するニーズを追究し見極めることは,私たちの最重要な課題であり,幅広くアンテナをはりめぐらせ,情報を理解し,判断する力を高める努力が,日常業務の中で求められています。
現在,インターネット時代で,大変多くの情報がリアルタイムで手に取れるようになっています。そのような時代のなかで,私たちの活字メディアはいかなる役割を果すのかも,私たちの追究する課題です。私たちの本づくりのプロセスでも,インターネットからさまざまな情報を得て利用しています。しかし,それらはいずれも断片的な,特定のことについての情報にすぎません。自分の求めるものに情報を集約するためには,さまざまなサイトから情報を得て行かねばなりませんし,その集約した情報の評価を下すのは自分しかおりません。書籍は,それに対して,一定の狙いのもとに必要な情報を利用者に有用かつ利用しやすい方法でまとめており,高い知見をもった著者が客観的な評価の上に提供しているということが利点です。
インターネット上の情報については,発信者は受信者を想定しないといって良いでしょう。使う人はお使い下さいという姿勢だと思います。書籍は違います。読者の皆様がこのような情報を必要としているだろうという視点を抜きに書籍は作れません。研究書ならば,学会の研究動向からさらにそれを進める情報を著者が発信し,それが学問状況の新展開に資するのです。テキストならば,大学教育で求められている情報を十分に備え,利用される読者が大学教育で期待される力を身に付けられることが目的です。実務的な書籍ならば,状況を切り開く知見が盛り込まれ,読者がそれによってご自身の日常業務をさらに高めてゆくなどの有用性が求められます。このように,書籍による情報の発信は,特定の受信者を想定しているのです。発信者すわなち著者の意図と受信者すなわち読者の書籍に対するニーズが一致してはじめて,その書籍の刊行は成功といえるのです。
読者から歓迎される出版物こそ,私たちの最高の喜びであり,最大の目的です。私たちは,つねにその点を意識して出版活動を続けています。日常の努力をさらに傾注することはもちろんのことですが,読者の皆様の忌憚のないご意見・ご批判などをいただき,出版活動に役立てていきたいと思います。どうぞ私たちの出版活動に,皆様の熱いご支援をいただけますようお願いいたします。
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